学校トップの美少女である彼女が僕の世話するのは日常と呼べるか否か。
抹茶
第1話
一点の曇りも無く晴れた青空。そよそよと優しい風が窓を吹きぬけて、僕の頬を優しく撫でた。何よりも心地良いその感覚を肌で感じながら、僕は窓の外に広がる景色に耳を傾けた。
夏。真夏の猛暑とまではいかないけれど、僕にとっては充分な暑さだと思う。きっと、それが僕にとっては似合う。
家の中か、図書室で読書ばかりをする僕にとって、夏というか日光が出ている中で校庭に行く行為は賛同出来ない。
僕にとって、の話なのだから否定する気は無いけど、その後に教室に戻って来てから「暑い・・・・・!」だったり「汗掻いたぁ!」だとか言うのは止めてほしい。
そういうのをされると、無駄な熱気が飛ぶし何よりも迷惑だと思っている。
「そういう訳で、このxの式は――――」
横に大きく膨れたお腹を隠そうともせず、汗だくの顔で荒い呼吸をしながら話す教師の話を遠くで聞きながら、僕はやはり外の景色を眺めた。
アスファルトの地面が暫く続いた先に、小さな団地が幾つか並び、木々が4階であるこの教室の窓近くまで伸びている――そんな光景だ。
(何でしたっけ?この木・・・・・・・・)
確か、一年の学内案内の時に自慢するように話された気もするけど、正直覚えていない。興味が無い話題だし、知ろうとも思わない。何時か忘れる知識を持っていても、僕は意味が無いと思う主義だ。
「じゃあこの問題を・・・・・・・・・・二城」
「はい」
そう呼ばれた男子は、少しだけ緊張した顔で黒板に文字を書いていった。教師の字が見るに耐えないものの所為か、見事に綺麗な字に見える。
まさかあの教師は、そんな生徒の心理を利用して―――なんてある訳が無い。
軽く被りを振って――僕が景色を眺めた状態から動いたことに気付いた。何時だったのだろうか。少し前までは木の名前を必死に考えていた気がする。
そんなどうでも良いことを頭の中で考えながら、僕は前に立つ男子を眺めた。
(覚えて無いかな・・・・・・・・・)
名前が出ない。顔は――どうだっただろうか。確か、一度だけ自己紹介の後に言葉を交わしたような気がしないでもない。
でも、まあ――
(どうでもいいかな)
そういうことだ。
どうせ後になったら忘れている事で、それに今何かを考えた所で結局結論は出ない。人間なんて一度忘れたものはそうそう思い出せない生き物だ。
そう結論すれば僕の行動は至って単純。外を眺めるのも止めてしまった訳だし、健
全な高校生として勉強に勤しむとしよう。
空白のノートを見下ろしながらそう考え、僕はペンを手に持って授業に耳を傾けた。
* * * * * * * * * * * * * * *
長い欲望との戦いというのは、主に数字と数字の関係性を解く授業で頻繁に起こる。あれは強敵だ。定期テストに備えて記憶にとどめないと危ないというのに、無駄に頭を巡らせた文章を読むと襲い掛かる―――睡魔。
そう、勿論数学と呼ばれる授業の事だ。
「途中から自転車に乗るくらいなら最初から乗れ」
「・・・・・・・・・正に正論だとは思うよ」
左側から呟かれた怨念の声に賛同しながらも、襲い来る睡魔と戦う。頭に直接語り掛けてくる文字と文字の複雑さ。
「大人になった時にこの問題を使うことは決して無いだろうね」
林檎がx円とか視力が低過ぎるのだろう。普通に値札を見て掛け算すれば良い。距離を求める必要性を感じない。普通に測れば良いと思う。
そんな訳で、この数学で僕は文句を内心で呟いたり本当に呟いたりしながら問題を解く。
隣に座る、イケメン顔の爽やかな男子は
心を見て決めたいと言う女子の98%はこのイケメンが微笑めば心の内を明かすと思う。
一部の男子からも人気があるくらいだから、やはりこのイケメンはイケメンだ。
「僕は君の容姿が欲しいよ」
「馬鹿言うな。俺の顔だ」
「だからこそだよ」なんて小声で呟いてから、僕は少しだけ文字で埋められたノートをチラリと見て――窓の外に視線を向けた。
――小鳥の囀りが、まるで今日を表しているようだった。小さく、儚く・・・・・・・・・。人生の中にある小さ過ぎる出来事の連鎖する今日のように。
明日もまた、小鳥は鳴いているんだろう。
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