ユートピア
王子
ユートピア
ウサギのペロは、生まれ育った村を出る決意をしました。この村は、何代にもわたり、そして今も、大人達が一生懸命に森を
パパもママも「この村が一番安全で、豊かで、住みやすいんだよ」と言いましたし、村長も「ペロがいなくなるのは
村と外の世界を
ペロは意気
「おはようございます、ウサギさん」
声を掛けてきたのはリスでした。
「おはよう、リスさん。僕はユートピアを探しているんだ」
リスは首を
「聞いたことないですよ、この先にユートピアがあるなんて」
リスと別れるとコウモリが
「やっぱり戻ろうぜ、一番幸せなのはあの村なんだよ」
ペロはそんな言葉には耳を
しばらく歩くと、ツバメと出会いました。
「こんにちは、ウサギさん」
「こんにちは、ツバメさん。僕はユートピアを探しているんだ」
ツバメは驚いたように声を上げます。
「私は空から遠くまで見渡せますが、ユートピアなんて見たことありません!」
少し肩を落としたペロに、コウモリが尋ねました。
「あの村が嫌いなのか」
「嫌いじゃないけれど」
「不満があるのか」
「不満だらけだよ。村長の許可なく門の外には出ちゃいけない、外の世界の情報は何も入ってこない、村を出たらもう二度と戻れない。そんなのおかしいよ」
コウモリは「そうだな」と言って、それきり黙りました。
日が落ちて、森に夜がやってきました。
次に会ったのは、森で一番物知りなフクロウでした。
「こんばんはフクロウさん、この森を歩いて行けばユートピアにたどり着けますよね?」
ペロは勢い込んで尋ねました。
フクロウはゆっくりと一回まばたきをすると、ゆったりと答えます。
「ユートピアは、確かにある。森にあるもの、森で起きたこと、森の全てを私は知っている」
ペロは元気にお礼を言うと、跳ねるように
コウモリは
「なぁお前、ユートピアがどんなところか知ってるのか」
「知らないから見に行くんだ!」
「じゃあ、お前にとってのユートピアってどんなところだ」
「みんな仲良しで、働かなくてもみんなお金持ちで、毎日楽しくて、何の不満も無いところかな!」
コウモリは
「お前、本当にユートピアの意味を知らないんだな」
ペロは急ぐ足を止めて、ムッとした顔で言い返します。
「知ってるさ!」
「本当に?」
ペロは、うーんと少し考えて、
「多分、知ってる」
と小さく
ペロが走り続けて疲れを見せ始めたところで、コウモリは「ちょっと止まれ」と声をかけました。
「そこに生えてるハッカ、眠気覚ましに食っとけ。休まず走るんだろ」
「疲れて足が動かなくなるまでは走るさ」
ペロは草をムシャムシャ食べて、また走り始めました。
それほど経たないうちに、ペロ達の前に大きな門が現れました。
門の
「きっとここがユートピアだ!」
門を叩こうとして、ペロは村のことを思い起こしました。村でも毎晩のようにパーティーをしたのでした。パパは友達と笑いながらビールを
ペロはもう村には戻れません。
ペロは頭を振って、門を叩きました。ゆっくりと門が開いて、ペロがたどってきた夜道を光が洪水のように照らします。闇の中を歩いてきたペロの目には
「やあ、ペロ。戻ってきたねぇ」
ペロは聞き覚えのある声に驚きました。
「よう、村長。約束通り、いただくぜ」
コウモリの言葉の意味が分からず、ペロは「どういうこと」と尋ねようとして、それは声になりませんでした。コウモリがペロの
「おいで」
村長の声に、コウモリは素直に従います。
「虫殺し草は食べさせたかい? ウサギの内臓に寄生する虫はコウモリに毒だからねぇ」
「虫殺し草? 何のことやら。食わせたよ、ハッカをな」
「まったく、お前は
門は閉ざされ、村に
「楽しんでいるところ、申し訳ないねぇ。みんなに一つ話しておきたいんだ。この村は
村民達は賛同の声を上げました。
「ありがとう、ありがとう。それでは、引き続きパーティーを楽しんでほしいねぇ」
村長が物見やぐらから降りると、景気よく踊る酔っ払い達をかき分けながら、ビールグラスを二つ持って駆け寄る村民がありました。村長の話に感動して乾杯を求めに来たのです。村長はグラスを受け取って、村民の持つグラスとカチンと合わせて言いました。
「ユートピアの将来に、光あれ」
ユートピア 王子 @affe
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