第20話 「第二次グアム沖海戦」

 フィリピン海、グアム島北沖四〇〇キロ洋上 2026年10月3日



 日米がグアム島奪還を開始してから一日が経った。このグアム島を巡る戦いで日米軍を撃退するべく、人民解放軍南部戦区海軍南海艦隊《薩鎮氷》艦隊はグアム島北側から迫っていた。

《薩鎮氷》艦隊は空母《薩鎮氷》以下、STOVL空母《海南龍》と駆逐艦八隻、ミサイルフリゲート十四隻、高速戦闘支援艦一隻からなる艦隊だ。その後方に揚陸艦等四隻、そして輸送船二隻、コンテナ輸送船二隻、その護衛のミサイルフリゲート六隻が続いている。

 各艦は戦闘隊形で間隔を開けていてフリゲート艦は現在進行系で901型高速戦闘支援艦《呼倫湖》から洋上移送による補給を受けていた。

《薩鎮氷》艦隊は今や歴戦の艦隊だ。南シナ海における連合勢力であるフィリピン、タイ、インドネシア、マレーシア海軍の他、オーストラリア海軍やビルマ海軍やインド海軍とも交戦を続け、その全てを退け、未だ負け無しの無敵艦隊である。

 艦隊将兵の自信も士気も高い。彼らは勝利よりもそれがどれだけ早く得られるかを考えるほど獰猛かつ勇敢だった。

 その艦隊旗艦である空母《薩鎮氷》では指揮官らが顔を合わせて話し合っていた。


「無人戦闘機による迎撃は成功と言えるでしょう。小日本機を三機、美国軍機九機を撃墜。大戦果です」


「有用な戦力だと証明された訳だな」


 投入された無人戦闘機群は損失は大きくても敵の攻撃を阻止し、艦隊防衛に多大な貢献をした。しかしながら無人機管制システムを搭載した早期警戒機を敵に狙い撃ちにされており、着陸させる基地も失ったため、空戦で無傷だった物も含め当初投入された全ての無人機を失っていた。


「使い捨てにするには惜しい装備だ。費用対効果なら三倍近い価格のF-18を九機落とせてもこちらが六十機失ったのでは意味がない」 


「海上に不時着させた機を可能な限り回収させています」


「しかしこれは有効な戦術だ。質で上回っていると高を括る連合軍は常に我々の無人戦闘機を警戒しなければならない」


「そうですね。空戦能力をより向上した無人戦闘機を開発して量産すれば連合の装備供給も人員の補填も凌駕できるでしょう」


「ドイツは今やこちら側だ。技術で連合に劣ることもあるまい」


 無人機に関わる参謀と政治将校の曽少将は目に見える戦果に興奮し、目を輝かせていた。それを艦隊の指揮官らは胡乱な目で見ている。


「そんなことよりも敵だ。致命打を与えるにはこちらの攻撃力が足りないぞ。どうするんだ」


 南海艦隊司令員の方少将の言葉に航空隊の指揮官はその言葉に表情を険しくする。敵との制空戦の結果、艦隊戦闘機は大きく数を減らしていた。《薩鎮氷》が搭載する艦上戦闘機である殲撃J-15は制空戦だけでなく対艦戦闘にも運用されるマルチロール機で空対艦ミサイルを発射できたが、防空が不足している状況では敵艦隊に攻撃に航空隊を割くことは困難で、艦隊が保有する艦対艦ミサイルだけでは敵艦隊に致命打を与えるには不足していた。

《海南龍》が搭載する殲撃J-14も数を減らしている。短距離離陸垂直着陸STOVL戦闘機であるJ-14は運用の幅が広いが、長射程の重装備の搭載は限定的だ。


「昨日の深夜に到着した補充機で一個飛行中隊を再編しました」


「フィリピンの攻撃隊の再出撃を持って本日、第二波攻撃を実行します。こちらを」


 電子チャートを指揮官たちは睨む。中国軍が占領するフィリピンの航空基地を拠点とする爆撃機編隊や攻撃機編隊の編成が表示され、艦隊直轄運用状態にあった。

 H-6こと轟炸六型爆撃機の爆撃機連隊とJH-7A殲轟七型攻撃機の攻撃機連隊等が占領したクラーク空軍基地に展開している。Il-78MP空中給油機や運油Y-20空中給油機も展開しており、第一波攻撃にはこの空中給油機と共に攻撃機が投入された。


「さらに対艦弾道弾攻撃を要請します。敵には波状攻撃を仕掛け、弾道弾対処に防空艦を割いたところで低空攻撃を行います」


「それよりも核だ。戦術核の使用許可を早く取れ。敵艦隊をまとめて始末するチャンスだぞ」


「……はい、直ちに」


 大西洋で枢軸が繰り広げる海上戦術核戦闘を見越し、艦隊はあらかじめ戦術核は装備していた。しかし戦術核の使用は認められておらず核兵器使用に必要な制御コードを与えられていなかった。

 環太平洋地域でも日本に掌を返して中立を宣言した国が幾つかあるが、その眼前で中国が先に核を使えば中立国が敵に回る。それを避け、また党の権力を誇示するため、共産党は核兵器の使用権限を現場に握らせなかった。

 そのため今本国への使用許可を求めても即応できる戦術核は占領したフィリピン北部に配備された空軍の爆撃連隊か、本国のロケット軍の核だけだ。


「核攻撃部隊を持って日米の空母戦闘群を壊滅させる。グアム島の敵揚陸部隊破壊に回った潜水艦を呼び戻せ」


 核兵器の使用を前提とした方司令員の言葉に幹部の中には戸惑う者もいた。その中の一人には《薩鎮氷》艦長のハー大校も含まれる。

 ここで自分達が戦術核を使えば当然日米も撃ち返してくる。中国は都市を壊滅させることが出来る抑止用の熱核兵器等の戦略核兵器の数は揃えているが、使える核兵器と呼ばれる戦術核の保有数は限定的だ。

 日本は日中核軍縮に基づいて水爆等の戦略核を一部解体し、弾道ミサイルや巡航ミサイルで使用可能な小型戦術核に比重を置いているため、戦術核戦では日本に不利になる恐れがある。ロシアは長年の経済封鎖により核兵器維持にも問題が生じており、公表している保有数と使用できる数が一致しておらず、核を持たないドイツにも大西洋におけるUボート戦術に使用する戦術核を供与しており、戦術核が不足していた。


「核に頼らずとも、小日本の艦隊など蹴散らせるでしょう」


 政治将校の曽少将は方司令員の発言に異論を唱えた。航空作戦参謀が方司令員に進み出た。


「そもそも喫緊の課題は敵の第二次攻撃をどう防ぐかです。核攻撃部隊よりも先に敵の攻撃が始まると思われます。これを撃退しなければ」


「艦隊の状況は?被害復旧はどうだ?」


 先の日本軍の攻撃で駆逐艦一隻、ミサイルフリゲート四隻が被弾して艦隊から離れており、さらにフリゲート一隻が今も消火活動に追われている。


「状況は変わりません。揚陸艦隊に落伍した艦の負傷者の収容を行いつつ、戦闘継続が出来ない艦はスービック湾へ撤退させます」

 

「投入できる無人機は?」


「管制機が無いため、同時に運用できる数に限りがあり、水平線見通し圏内での運用しか出来ないため、アウトレンジ攻撃への対処はかなり困難です。管制機があっても今投入できるのは二十機ほどです」


「出し惜しみしている場合では無かったが、回収できない状況では問題だな。航空隊は対処できるか」


「全力を尽くします。敵は射程の長い対艦ミサイルで我が艦隊の対空ミサイルの射程外からのアウトレンジを。これを撃退するため、早期警戒機を敵艦隊方面に向かわせ、早期警戒網を構成。敵の攻勢を早期に察知し、艦隊遠方で敵を迎撃します。またこちらも攻撃を継続し、敵に防勢を強要します」


「防空網を抜かれて虎の子の無人機管制システムを失った。進出させた早期警戒機を落とされるようなことはあってはならん」


「了解しました」


 航空作戦を担当する参謀達は内心に抱える不安を口には出さずに自らの職務を全うすることに努めた。





 太平洋 グアム島南東沖一五〇キロ



 風はあるが、高気圧に覆われグアム島はほぼ快晴に近い天気の朝を迎えた。そのはるか東の海上では日本海軍第二機動艦隊が艦載機を発艦させるため、艦隊一丸となって風上に向かって突き進んでいた。艦載機の三分の一相当の機数を一回の攻撃に集中させるアルファストライクのため、《赤城》は四十機近い戦闘機を発艦させており、艦隊防空のための戦闘機による空中戦闘哨戒CAPも常時八機態勢だった。

 攻撃にはE-2D早期警戒機も後方に随伴し、艦隊防空のためのE-2Dは一機で艦隊前面で八の字の周回哨戒飛行を行っている。

 艦隊の先頭を進むのは防空駆逐艦《水無月》で、その後方に戦艦《大和》、防空巡洋艦《朝霧》と防空駆逐艦秋月、その後方に《赤城》は位置していた。《赤城》の両脇には防空巡洋艦《比叡》と《金剛》が配置に就き、先の攻撃で射耗したCIWS等の弾薬補給を行いつつ前進を継続している。

 海軍情報部の分析によれば《薩鎮氷》艦隊に合流するための増援がフィリピンに集結する兆候が確認されており、その増援が敵艦隊に合流する前に撃破するため、日本軍は早朝の攻撃を決心した。

 艦載機が発艦する様子を南雲はモニター越しに見つめていた。カタパルトから戦闘機が打ち出されるたびにCICにも振動が伝わってくる。


『早期警戒情報。江西省より弾道ミサイル発射を探知』


 アナウンスがCICに流れ、一瞬士官達は顔を強張らせた。サイパン等への弾道ミサイル攻撃以降、日本軍は早期警戒衛星等による弾道ミサイル警戒を強めていた。江西省には中国人民解放軍ロケット軍PLARFの基地がいくつか存在し、グアムを射程に収め航行中の艦船への攻撃能力を持つと言われるDF-26弾道ミサイルを運用している。


『八発のDFデルタフォックストロット-26ツーシックス発射を確認。以降ターゲットアルファ1から8と呼称』


『《比叡》、《摩耶》。システムをBMDモードに』


「本艦隊に対しての攻撃だけではあるまい」


 矢口の視線の先には第二機動艦隊より三十マイル北東側に位置する米海軍第七艦隊の輝点マークがあった。核攻撃によってまとめて掃討されるのを避けるため合流せずに日米軍は行動していた。


「低空より敵巡航ミサイル接近を探知。方位308、数二十二、距離八十。急速に近づく」


「弾道ミサイル対処でこちらの防空能力を削ぐつもりか」


 矢口の懸念は南雲と同じだった。弾道ミサイルに対処中のイージス艦の横腹は無防備そのものだ。そのため僚艦防空能力を持った駆逐艦がそれをサポートする。


「CAPを低空目標迎撃に。《比叡》と《摩耶》はBMD継続だ。艦隊陣形を入れ替えろ」


 第二機動艦隊は弾道ミサイル攻撃と低空からの巡航ミサイル攻撃に晒されることになった。





 中国人民解放軍海軍南海艦隊の《薩鎮氷》艦隊との決戦を制するため、第二機動艦隊の投入し得る戦闘機が北を目指して飛んでいた。その中でもF-14J戦闘機の数は二十機にも達する。

 空母《赤城》の艦載機だけではなく、トラック方面からは対艦巡航ミサイルを抱えた海軍のP-1対潜哨戒機やF-2戦闘攻撃機、空軍のF-15EJ戦闘攻撃機、F-2戦闘攻撃機が攻撃に加わり、第二機動艦隊より東からは再編された米海軍の空母《ロナルド・レーガン》から発艦したF/A-18E/F戦闘攻撃機やEA-18G電子戦機、F-35Cステルス戦闘攻撃機が向かってきていた。

 さらに攻撃隊の後方には《赤城》と《ロナルド・レーガン》のE-2D早期警戒機、日本空軍のKC-767空中給油機等が続いており、グアム島方面では米海兵隊と日本空軍の戦闘機が地上への攻撃とグアム島上空の航空優勢を維持するための攻防を続けている。

 八十機以上の航空機が入り乱れている状態で、すでに敵の無人戦闘機群と先行してエリアスイーパーを務めた第203戦闘飛行隊のF-14Jが交戦を開始していた。

 月島は麻木が指揮するクーガー1-1編隊に加わっていて、麻木の僚機ウィングマンを務めていた。クーガー1-1編隊は四機編隊で、他に白石と都築の機が加わっている。


『全機、こちらソーサラー0-1。艦隊に敵攻撃接近。方位2-9-8。敵爆撃機及び攻撃機多数』


 艦隊が攻撃を受けている。予期されていたその事に今更動揺するわけではないが、気にはなる。


『作戦に変更なし。各隊は所定の行動を続行せよ』


 クーガー1-1編隊は敵艦隊との距離が二〇〇キロを割り、先を行くF-14Jに続いて高度を下げ、低空飛行に移行しようとしていた。すでに戦闘態勢を整え、月島も編隊を維持しながら首を回してレーダーだけでなく目視での警戒も怠らないようにしていた。

 護衛してきた第202戦闘飛行隊のF-2A戦闘機の編隊が次々に離れていく。青い空の中でもその群青の機体は綺麗に見えた。その中に月島達に向かってバンクを振って離れていくF-2があった。日比谷大尉のF-2だ。麻木に向けたものだろうと月島は思った。


『ここからだ。気を抜くな』


 麻木の声が届く。低く抑えられた落ち着き払った麻木の声は普段ならまだしも編隊長という孤独を経験した今の月島には頼もしい。


『各編隊、こちらソーサラー0-1。ボギー急迫ホット


 早期警戒機が警告してきた。


『来ましたね』後席の小鳥遊が機内通話で月島に囁いた。『ボギー、四機です。二機編隊エレメント二個グループ。ベクター0-1-3、レンジ110』


 早期警戒機が目標をそれぞれグループに割り振っソートて情報を共有してきた。


「了解。リーダーの合図で攻撃する。FOX1フェニックス準備」


『こっちで撃ちましょうか?』


「任せるよ」


『了解』


 月島はWSOの小鳥遊とのやり取りに慣れてきたことを実感した。自分が主体的に動けるのは不安だが、気分がいい。先ほど溝口から編隊長を引き継いだときも実は気分が高揚していたことに今気付いた。


『各機へ。接近する四機には1-7編隊が対処する。このままリンクスを援護』


 麻木が指示する。麻木の言葉通り、クーガー1-7編隊の四機が敵機に向かった。朝倉幹久あさくらみきひさ大尉が率いる編隊だ。

 リンクス0-7編隊のコールサインが与えられたF-14Jは空対空ミサイル満載だが、攻撃機役の動きをして敵の艦隊防空機の迎撃を誘おうとしている。


『逸るなよ。ようは美人局だ。せいぜい誘惑してやれ』


 麻木の声からは不敵な笑みを浮かべる麻木の表情すら想像できた。艦攻の動きに偽装しているのをこちらから攻撃して崩せば敵を誘引できなくなる。密かに忍び寄るF-2に敵機が気付きかねない。


『おおっと、さらにきましたよ』


 小鳥遊が声を上げた。


「どっちだ」


『新たなボギー、左からです。ベクター3-4-1。二機編隊エレメント二個グループ。リードグループ、レンジ九十五。トレイルグループ、レンジ一一五』


 RWRが鳴る。素手で内臓を探られているような不快さが沸くようになった。


「探られてるな」


『ECMで対抗中』


『針路は維持しろ』麻木が呼び掛けた。『撃たれるまで待て』


『スコーチャーよりヤバイですね、ヘイズは』


 小鳥遊が機内通話のみで後ろから話しかけた。


「通常の戦術だ。別にヘイズの度胸試しって訳じゃない」


『でも列機に撃たれるまで待てって指示を出せるのが凄いですよ』


 小鳥遊は緊張を紛らわせたいのかいつになく喋る。敵に撃たれても回避できると分かっている距離がある。それに敵の中間誘導を妨害すればさらに命中公算は低くなる。ミサイルと言っても万能ではない。最高速度まで加速し、推進剤を使い切ったミサイルは滑空してこちらに向かってくるため、速度とその運動エネルギーは低下し、こちらの回避機動に追従するために運動エネルギーを失っていく。

 目視外射程戦闘においては敵機とミサイルを撃ち合いつつ、間合いをいかに詰めて敵機に回避できる隙を減らすか、こちらを攻撃させないよう牽制し続けるため、編隊を統制することが重要だ。

 RWRが鳴り続けているがこちらは低空、そしてECMで各機が対抗し、電子戦機も作戦空域に妨害を行っているため、目視外射程BVRからの撃ち合いがなかなか生起しない。


『ボギー、マッハ一・〇マックワンポイントジロで接近ホット


「引き付けろ」


『引き付けるしかないんですけど』


『敵艦隊まで間も無く八十マイル。攻撃態勢』


 リンクス0-7のコールサインが与えられた藍田が報告した。敵艦隊に予定よりもかなり近づけてしまった。敵機は集まってきていてはるか高空を飛ぶ味方機と空戦が繰り広げられている。右から高速で近づいていた敵機にも味方機が食らいついた。


『これ、ASM持ってきてたら空母刺せちゃうんじゃないですか』


 小鳥遊が呟いた。


「AAMを満載しているからまだ気持ちに余裕があるが、これで対艦ミサイルを抱えて鈍重で燃料も減っていたら生きて帰れる気がしないよ」


 月島はそう答えながら首を回して目視警戒を続ける。この偽装攻撃隊デコイは本命の攻撃隊よりも突出しており、同時着弾攻撃TOTとは合っていない。袋叩きに遭うのを承知の上での行動だ。


『新たなボギー。真正面デッドアヘッド距離レンジ二〇海里ツーゼロ高度二千アルトゼロツー


 ほぼ同時にRWRが鳴った。


『FOX1、ツーシップ』


 麻木がコールした。麻木のF-14よりAIM-54Eが発射された。レーダー上に表示されるミサイルの輝点が敵機に向かう。敵機が編隊を崩し、離散する。リンクスの攻撃隊役はさらに直進した。


『クーガー1-1、こちらソーサラー0-1。ボギー、さらにベクター3-3-0から四機接近。レンジ三八マイルスリーエイト


 こちらの制空隊と交戦していた敵機の一部がこちらに差し向けられる。攻撃隊に偽装したリンクスへの迎撃行動だ。


『よし。食らいついてきたぞ。全機、かかれ』


 麻木の声を聞き、各機はファイタースイープ──戦闘機掃討にかかった。

 スロットルをアフターバーナーゾーンに押し込み、エンジンのアフターバーナー点火。急激な加速を始める中、機首を上げ、急上昇する。月島はデータリンクによって割り振られた目標を自機の機上レーダーでロックオン。


「FOX1」


 方位三三〇度から新たに接近してきた四機のうち二機に対し、AIM-54Eを発射した。麻木が残りの二機に対してほぼ同時にAIM-54Eを発射する。

 距離三十八海里ノーチカルマイル、わずか七十キロ先の目標との交戦。敵機は回避間際にミサイルを発射。MWRミサイルウォーニングの警告音が鳴り響く。


『ブレイク』


 中間誘導を中断して回避に転ずる。敵機から発射された中距離空対空ミサイルも中間誘導なしの慣性誘導でこちらに向かってくる。チャフを放ち、急旋回してビーム機動を取る。

 白石と都築が攻撃機役を終えた藍田以下、四機と共に向かってきていた敵機と交戦する。空対空ミサイルが飛び交い、双方回避機動を取る。

 戦闘機と戦闘機が鍔迫り合いを行う中、敵艦隊に向かって日米連合の攻撃機部隊ストライクパッケージが接近する。米海軍のF/A-18E/F戦闘攻撃機の編隊は直掩にF-35C戦闘攻撃機を付け、日本海軍のP-1対潜哨戒機の編隊もトラック方面から飛び立ったF-2Aの護衛を受けていた。




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