第14話 「艦隊戦」

 航空母艦《赤城》は、第二機動艦隊の艦艇十六隻が組む輪形陣の中心を進んでいた。各艦の間隔は一キロ以上を開けた戦闘隊形であり、上空では艦隊防空のF-14J戦闘機とE-2D早期警戒機が張り付いている。

 円盤状ロートドームの大型レーダーを背負ったE-2Dは高度三万フィートを飛び、水上の艦艇が水平線/地平線で見通せない広範囲の低空を監視し、F-14Jを要撃管制して艦隊を守っていた。さらに《赤城》の両脇一キロほどの位置では、イージスシステム搭載防空巡洋艦《金剛》と《比叡》が囲むように配置されており、その他防空駆逐艦が外周には配置され、《赤城》は鉄壁の守りの中にいる。

 その《赤城》戦闘情報指揮所CICは必要な照明のみが使用され、薄暗い中でCICの要員達が目の前のモニターに向きあっていた。

 アメリカの空母ではCIC(Combat Information Center)ではなくCDC(Combat Direction Center)と呼ばれるここは、《赤城》の中枢であると同時に第二機動艦隊の中枢をも成していた。通信や各種データリンクなどと艦隊各艦、航空機と結ばれており、全ての情報が集約されて処理され、隣接する旗艦用司令部作戦室FICと、多目的室に設置された統合任務部隊司令部に共有されている。

 CICの各種ディスプレイには目まぐるしく周辺の艦艇や航空機の情報が映し出され、リアルタイムで動くそれらに乗員達は目を走らせ、必要な事項を短節に報告している。CICの中央に座る艦長の南雲は祈るような思いで大型ディスプレイに映るレーダー情報を見ていた。


「早期警戒機、新たな水上目標探知。方位三五五度。距離約三〇〇海里マイル。中国艦です。その後方一マイルにさらに複数の艦艇。南海艦隊と思われます」


 三〇〇マイル、約四八〇キロ先に敵艦隊は展開し、こちらに接近しつつあった。敵艦隊は空母を中心とした輪形陣を組んでいてその配置は電波活動状況等からだけでも判明する。日本海軍は電波封止を徹底し、艦載機の発艦にも最小限の通信で済ませているが、中国人民解放軍海軍は近年空母機動部隊を整備したばかりでノウハウは高くない。しかしながら敵もアメリカが開発し、日本も運用するE-2艦上早期警戒機を模倣した空警KJ-600艦上早期警戒機を飛ばしており、すでにこちらを捕捉している。

 敵艦隊の配置は独特で中国人民解放軍海軍の国産正規空母《薩鎮氷》を囲む輪形陣と、ソ連のキエフ級空母を基にした《海南龍》を囲む輪形陣の二つを組んでいて、瓢箪型となっている。《海南龍》戦隊は快速艦で編成され、南海艦隊の先遣を担って先行して制空任務を遂行するため、STOVL戦闘機の殲撃J-14を飛ばしていて、その後方から追い付いた《薩鎮氷》はさらに大型で航続距離と兵器搭載量、運動性能の高い殲撃J-15艦上戦闘機を搭載していた。

 その後方には未確認ではあるが、グアム島及びその周辺島嶼部を占領するための揚陸艦隊も控えているはずで敵艦隊の艦艇の数は三十隻を超えている。


「来たな……」


「二十一世紀の艦隊戦ですね」


 副長の古樫中佐が相槌を打つ。


「現代史上初の最大の艦隊戦なんじゃないか」


「歴史に刻まれますね。グアム沖海戦ですか」


 艦隊戦とは第二次世界大戦時は艦隊同士が目視距離で砲撃を交えて直接戦う物だったが、現代でははるかに射程が延伸し、数百キロ先の敵艦隊と巡航ミサイルや互いの攻撃機で刺し合う戦闘となっている。

 第二次世界大戦終結から今日まで艦隊同士が一戦を交えるという状況は生起してこなかった。艦隊による一方的な蹂躙か、潜水艦や攻撃機による艦隊への奇襲だ。

 この戦争が始まっても双方艦隊決戦を避けてきたが、ここに来て双方引くに引けない戦いを強いられようとしている。

 敵はグアム島を占領した後に揚陸艦隊の護衛のために一度北上した太平洋における中国人民解放軍海軍の主力機動部隊だった。グアム島奪還のためにもこの主敵との対決は避け得ないものだった。海軍としてもこの空母機動部隊を早期に捕捉して撃破する事は今後の作戦のためにも最優先事項であり、軍令部からも奪還作戦とは別に会敵次第撃破するための行動を取るようすでに命令が下っていた。


「敗者としてではないといいがな」


 南雲の言葉に古樫は肩を竦めた。


「部下を信じてください」


 古樫の言葉に南雲は頷いた。幾ら優れたハードを持ってしても、そのハードを活かし切るのはソフトたる人間だ。敵は数の優位でこちらを蹴散らそうとしているが、負ける気は毛頭なかった。


「対水上戦闘用意」


「対水上戦闘用意」


 南雲の命令が古樫によって復唱され、それは《赤城》のみならず艦隊各艦に伝達されている。


「予定通り航空隊による攻撃に合わせ、艦隊の巡航ミサイル攻撃を実施する。敵も本艦隊を捉えているぞ。対空、対水上見張りを厳となせ」


 南雲は飛行甲板をモニターするディスプレイを見た。グアム島への対地攻撃を早々に切り上げ、対艦兵装を装備したF-2A戦闘攻撃機が連続発艦を実施しようとしている。現代の艦隊戦においてその雌雄を決するのは航空戦力であると言っても過言ではなかった。


「警戒機が本艦隊に接近する目標を探知。方位三五四度から三五六度。数は九十二。距離九十マイル、高度五十フィート。目標は巡航ミサイルです」


 報告が飛び交う。艦長は砲雷長に迎撃を命じた。と言っても《赤城》の長射程の艦対空ミサイル等の兵装は無く、個艦防御用の限られた兵装しかない。


「対空戦闘。迎撃始め」


「対空戦闘!」


電子戦EA攻撃始め」


「EA攻撃始め」


 対艦巡航ミサイルYJ-12が第二機動艦隊に向かってきていた。超音速巡航ミサイルであるYJ-12はステルス性を維持したまま低空をマッハ一程度の速度で飛翔し、終末誘導時にマッハ三以上へ加速し、迎撃を掻い潜る恐ろしい兵器だ。

 E-2Dがそれを捉えて通報し、《赤城》と防空艦は敵巡航ミサイルに対する電子戦攻撃を開始。

《赤城》の強力なECMはミサイルの誘導装置を欺瞞し、中間誘導も断ち切り、敵側から飛翔する八十基以上のYJ-12のうち、その半数の妨害に成功した。


「ターゲットサーバイブ。目標四十七。引き続き本艦に近づく」


「さらなる目標。方位三度から十四度、低空より本艦隊に接近する小型目標探知。数は三十四、距離八十マイル、高度五十フィート。目標は巡航ミサイルらしい」


「新たな目標群、トラックナンバー、二一三八から二一七二。EA攻撃始め」


「EA攻撃始め」


「《赤城》の真骨頂だな」


 南雲は思わず呟いた。強力な電子戦システムを装備する《赤城》はアクティブステルスによって艦隊の全艦を電子防護できた。敵のレーダーに対して妨害電波や偽装電波を発して実際の位置を欺瞞する能力だが、それは対艦ミサイルに対する電子戦攻撃にも転用できる。

 電子戦攻撃は続けて実施された。

 艦隊防空には艦隊を中心に三つの防空ゾーンが設けられており、イージス艦などの艦艇が低空を飛ぶ目標に対応できる最大射程の約百二十キロより外をアウターディフェンスゾーン、百二十キロから内側をエリアディフェンスゾーン、そしてさらに内側、約三十キロが個艦で対応するポイントディフェンスゾーンとなっている。

 艦隊はアウターディフェンスゾーンで敵ミサイルを撃破するべく、防空巡洋艦、駆逐艦がSM-2ERスタンダードミサイルを始めとする各長射程艦対空ミサイルを発射する。

 共同交戦能力CECにより早期警戒機と連携することでイージス艦の水平線見通し線外の非探知域の低空を飛翔する巡航ミサイルに対する遠距離からの迎撃が可能だった。

 各艦が垂直発射機VLSからミサイルを次々に発射し、甲板が白煙に包まれる。さらに艦隊防空戦闘機もアウターディフェンスゾーンにおいて巡航ミサイル迎撃に向かう。


「203rd TFS、CMをインターセプト」


 艦隊防空のため戦闘空中哨戒を行っていた第203戦闘飛行隊のF-14J六機が巡航ミサイルを迎撃。空対空ミサイルで撃破していく。

 超音速で飛翔する巡航ミサイルが優先的に撃墜され、そのほとんどの撃墜に成功したが同時に飛翔していた亜音速の巡航ミサイルは未だに多数向かってきている。エリアディフェンスゾーンに侵入したミサイルへの対処も始まる。


「攻撃隊、発艦開始」


 航空管制が伝える。敵艦隊攻撃のための連続発艦が始まった。艦対艦ミサイルの射程が伸びても決定打を与えるのは航空戦力だ。攻撃は最大の防御、敵を撃破することが艦隊を守るためのもっとも有効な手段だった。


「……頼んだぞ」


 誰に聞かせるでもなく南雲は思わず口にした。




 ※



「クーガー1-2、発艦エアボーン


《赤城》より射出され、旋回した月島は無線に吹き込みながらさらに高度を上げ、《赤城》の上空を反航した。発艦した戦闘機が指定された高度でそれぞれ編隊を作りつつある。眼下の戦闘艦艇は次々に対空ミサイルを発射しており、それは月島たちが向かう方向に向かって白い筋を伸ばしていく。はるか先の低空域で爆発の閃光がきらきらと光っていた。編隊機と合流しようと首を回して探すが、溝口機の姿が無い。


『スコーチャー。一時方向、下方です」


 翼を傾けて探していると兵器管制士官WSOとして後席に乗り込む小鳥遊少尉が告げた。機長スキッパーとして麻木が乗り込んでいたのとは違う、心細さを一瞬覚えて振り払うように首を振って下方に目を向ける。低い高度を主翼を広げたF-14Jが飛んでいた。


『こちらクーガー1-1。エンジン不調』


「えっ」


 唐突に飛び込んできた溝口の声を聞いて月島と後席の小鳥遊は同時に声を上げた。


『出力が上がらない』


 溝口は淡々と告げていた。その間にも都築と今里のF-14Jが月島機に合流し、編隊を組んでいく。


「クーガー1-1、大丈夫ですかアーユーノーマル?」


『マニュアルに従って対処中だ。復旧は困難。緊急帰投する』


「嘘だろ」


 ぼろエンジンと揶揄していた罰が今更当たったように思えた。


「外観点検を実施します」


『スコーチャー、貴様が編隊長だ。列機をまとめろ。指揮を執れ。任務を遂行しろ』


「ら、ラジャー!」


 月島は咄嗟に応答したが、二機編隊長資格しか月島は取得していなかった。溝口のF-14Jは編隊からあっという間に引き離されていった。月島は困惑していたが、直ちに手順に従い、編隊の掌握にかかった。編隊を組む二機を振り返る。都築も今里も月島を編隊長機の位置に置くように編隊を組んでいた。


「えぇと……クーガー1-3、1-4。こちらクーガー1-2だ。無線点検ロメオチャーリー


『1-3、感度明度良好リマチャーリー


『1-4、リマチャーリー』


 都築と今里が次々に応答した。彼らの声に動揺は見られない。月島は気を引き締めた。編隊長としての役割を果たさなくてはならない。彼らが不安に感じるような言動は出来なかった。

 さらにカナード翼に後退翼と水平尾翼を兼ねて大きく外側に開いた双垂直尾翼が特徴の佐々木少佐が乗り込んだEF-2B電子戦機も合流する。


「これより1-2が臨時で指揮を執る。トラブルが起きたが、任務は変わらない。ランサー0-3を援護する。サポートを頼む」


『3、コピー』


『4、コピー』


『大丈夫ですよ、スコーチャー。訓練だと思ってやりましょう』


『まぁ、なんとかなりますよ』


 都築も今里も月島を励ますように言った。二人が動揺している月島を気遣っているのが分かった。情けないが、指揮を継承した以上、自分でどれほどその未熟を自覚していようとも編隊長として振舞わなければならない。さらに艦隊防空とは別に攻撃隊を支援するE-2D早期警戒機AEW兵器管制官コントローラーも呼びかけてくる。


『こちらソーサラー0-4。クーガー1-1が離脱した。1-2、任務を継続』


「ソーサラー、こちらクーガー1-2。ラジャー。1-2が指揮を引き継ぐ」


 月島は機体を飛ばすこと以外にも編隊を指揮するための手順を懸命に思い出した。麻木が普段やっていることを思い出す。


「ランサー0-3、こちらクーガー1-2。1-1に代わって指揮を執り、貴機を援護する』


『こちらランサー0-3、ラジャー。宜しく頼む』


 佐々木の声は心なしか硬く感じる。その声色は不安を隠しているようで、月島にはそれがこれからの戦闘以上に、未熟な自分の指揮能力への不安に感じられた。

 そんな月島達の些細な事情など知らぬように作戦自体は進行していく。

 攻撃隊はそれぞれ編隊を組みながらそれぞれの役割を果たすため広い空の中に散っていった。敵艦隊までの距離は約五〇〇キロ、東京からなら京都まで行ける距離だが、六〇〇ノット、時速一一〇〇キロ以上で空を駆ける戦闘機同士にはそれもあっという間に縮まっていき、双方の戦闘機があちこちの方面で会敵し、すでに一部では交戦が始まっていた。


『サーベル2-1、エンゲージ。FOX3』


『タリ、タリ!ボギー・マージ』


『ツーオクロックハイ、ミサイル!ブレイク、ブレイク!』


 飛び交う無線が激しくなる。だが、まだこれは緒戦に過ぎない。こちらの本隊と敵の本隊がぶつかればこれ以上に激しい戦闘になるだろう。

 月島は指先が震えているのを自覚した。フライ・バイ・ワイヤの操縦桿がそれを機体に反映させるのを防ぐために力が籠もっていた手を緩める。

 心拍数が上がり、汗が出ている。緊張状態だ。ある一定の心拍数への上昇は肉体のパフォーマンスを高めるが、それを超えると視界が狭まり、体の制御も覚束なくなる。呼吸でそれを制御する。

 編隊長という責任は想像を超える重責ですでに押し潰されそうだった。これは武者震いで、自分は思いがけないチャンスに恵まれ、同期よりも早くステップアップできる。前向きに考え、自分を騙そうとしたが、無駄だった。

 麻木ヘイズは毎回これを背負っていたのか。月島は麻木の一挙手一投足を思い出しながら、心の奥底で、力を貸してくれと祈っていた。




 ※




《赤城》が航空隊を発艦させる中でも対空戦闘は続いていた。

 射程一五〇キロ超えのSM-2ERと共に《比叡》等の最新鋭防空巡洋艦が発射したのは共同交戦能力CECを活かして水上艦のレーダー圏外にも対応できる、03式中距離地対空誘導弾をベースとしたRIM-4艦対空誘導弾を元にするRIM-5艦対空誘導弾だ。

 RIM-5はイージス艦とE-2D早期警戒機等をCECで接続し、イージスシステムのレーダー探知圏外にある目標を攻撃するための艦対空ミサイルで、その射程は二〇〇キロを超える。遠距離でそれらのミサイルが艦隊に近づく前から次々に目標を撃墜していたが、その防空網を敵の対艦ミサイル群は数の力で押し通る。

 続いてCECを持つイージス艦以外の防空艦からも最大射程五〇キロ程度の短射程迎撃システムのESSM発展型シースパロー艦対空ミサイルやRIM-4艦対空ミサイルが発射され、はるか遠方を飛ぶ敵対艦ミサイルを撃墜していく。しかしながらその数は未だに多く、今やマッハ〇・八、秒速二七〇メートル以上の速度で飛翔する対艦ミサイルはエリアディフェンスゾーンを越え、ポイントディフェンスゾーンに近づいていた。

 現代の対空戦闘はいかに遠距離において敵を撃破するかが主眼に置かれる。懐に入られれば対処できる手段も時間も限られていた。現代戦は秒単位で戦況が一変する。


「目標二十一発、撃墜。残り八発、なおも近づく」


「艦橋、第三戦速、面舵おもーかーじ。二十度、宜候」


《赤城》は回避行動を取る。対艦ミサイルはこの艦隊で最大の目標、全長三百メートルを超える《赤城》を目指して急速に接近している。


「あれが核弾頭だったらすでに被害範囲ですね」


 古樫が苛立ったように言った。


「滅多なことを言うな」


 南雲はそれを窘める。


「《比叡》、シースパロー発射」


 アウターディフェンスゾーンに対処していたミサイル巡洋艦《比叡》が、前部甲板のMk41垂直発射システムVLSから発展型シースパローESSM艦対空ミサイルを発射し、対艦ミサイルを迎撃する。

 しかし三十キロの距離を十二秒で飛翔する対艦ミサイルはすでにESSMが目指す地点よりも内側に入っていた。


「迎撃、間に合わない……!」


「チャフ発射始め!」


 艦隊の艦艇はほとんど同時にチャフロケットを発射した。

 チャフ発射管から飛び出したチャフロケットは、高度百五十メートルに達すると空中で炸裂し、敵のレーダー波を攪乱するためのアルミ被覆されたグラスファイバー片を周囲に散布し、チャフ雲を形成した。チャフ雲はレーダー波を反射し、敵ミサイルの誘導を混乱させる。


「ミサイル四発、撃墜。十度より接近中のミサイル四発を要撃機が撃墜した!」


「五度よりミサイル四、なおも本艦に向かって近づく」


《赤城》にはFCS-3対空戦闘システムからミサイル装備の省略に合わせてミサイル射撃指揮機能を省略して対空捜索と航空管制に用途特化したOPS-50Aを装備する。


近接防空火器CIWS、攻撃始め」


「対艦ミサイル、左九十度、真っ直ぐ近づく」


『艦橋、ミサイル視認!低空より接近!』


「《大和》、本艦とミサイルとの針路に割り込みます!」


 北から接近する対艦ミサイルと《赤城》との間に、《赤城》の前方に位置していた満載排水量七万トンを超える巨艦の大和型戦艦《大和》が割り込もうとしていた。


「無茶をする」


 統合戦闘ディスプレイに表示される《大和》の位置を見て南雲は呻いた。

 世界最後の戦艦《大和》は原子力戦艦に改造され、ステルス構造の設計を取り入れた傾斜船型と最新の装備を整えた現代用の戦艦となっているが、その堅牢な装甲と強力な火力は健在だ。

《大和》が副砲として装備する六二口径127mm三連装砲の砲塔が旋回しながら射撃し、各門毎分二十発の最大発射速度で速射し、対空砲弾をばら撒く。砲弾が次々に空中で炸裂し、一基のYJ-62A対艦ミサイルを直撃した。対艦ミサイルの高性能爆薬と砲弾の炸薬が炸裂し、低空で火球が生まれる。さらに一基の対艦ミサイルが破壊されて海面に叩きつけられるが、その弾幕の脇を二基の対艦ミサイルがすり抜けてなおも《赤城》に突進する。

 その針路上に《大和》は最大戦速で割り込もうとしていた。巨艦ながら《大和》の最大速力は三十ノットに達し、さらに艦橋側の近接防空システムCIWSのSeaRAM近接対空ミサイルを発射する。

 捜索レーダーのレドームが備わった十一連装発射機からRAMローリングエアフレームミサイルが発射され、螺旋を描くようにマッハ二・五に向けて加速しながら飛翔し、感知部シーカーによって対艦ミサイルの発するレーダー波をパッシブ・レーダー・ホーミングで探知し、赤外線画像IIR誘導シーカーでロックオンする。

 発射された二基のRAMは、《大和》に迫る対艦ミサイルに殺到した。一基目は外れて海面に突っ込んだが、二秒の間隔を開けて発射された二基目のRAMは対艦ミサイルの正面で近接信管を作動させて炸薬を炸裂させて弾体の破片を叩き付ける。

 RAMの弾体の破片の直撃を受けたYJ-62A対艦ミサイルは破壊され、海面に叩きつけられて爆発した。

 同時に後部上構両舷に備わるCIWS高性能25mm機関砲のうち、左舷側が自動で弾幕を張る。GAU-12イコライザーをベースとする25mmCIWSは約四二〇〇発毎分の発射速度で25mm徹甲焼夷弾を対艦ミサイルに向かって浴びせかける。

 曳光弾の火線がレーザーのように海面すれすれを飛ぶ対艦ミサイルに向かって伸び、ホップアップしたそれを追従した。ミサイルは上昇したところを弾幕に捉えられて爆散し、その破片を《大和》に叩きつけた。


『艦橋、爆発閃光視認!』


「対艦ミサイル撃墜。近づく目標なし」


「艦隊に損害なし」


《赤城》含む第二機動艦隊は敵攻撃の第一波を凌ぎきった。南雲は艦橋のテレビカメラがモニターに映す《大和》の巨艦が《赤城》を守り切る頼もしい勇姿に安堵し、力を緩めてイスに腰掛けたくなるのを堪えた。敵の攻撃はまだ終わっていないのだ。


「三〇六度、百四十マイルより多数の航空機接近」


「要撃機、向かいます」


「三〇六度、敵機です。大型爆撃機、少なくとも八機。及びその護衛機を確認」


「こいつは対艦ミサイルを抱えてるはずだ。対艦ミサイル発射前に叩け」


 第二機動艦隊の熾烈な防空戦闘は続いた。

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