閑話 空洞の覗く面持ちにⅡ
野望
三年前、ミネルヴァ・オーリオが死んだ。
享年二十六歳。ヘレンの成人を待たずして、酒の席で盃を酌み交わすことなく死んだ。口伝もされず紙面にすら残されなかった彼女の死因は、今となっては調べることはできない。
彼女の遺体が埋葬されることは無かった。死後時間が経たないうちに腐敗抑止の薬液を投入して、衣服を全て剥ぎ取って冷凍室に運ぶ。コンクリート材の床に設置された拘束具で両手両足と首を固定し、鉄扉を閉じて死体を凍らせる。丸一日ほど経過した後に、器具を外して四肢の解体。ノコギリなどの鋭利な刃物を使用して、体液まで硬化した肉体を時間をかけて切り落とす。その後に死者は、ビザールレディの部品となるのだ。
ミネルヴァの女性らしい肉厚な体躯は、女神として昇華する適性があるとして別途で断裂された。白魚のような腕と肉つきの良い下肢は、脆くなった処女作のビザールレディの付け替え品に。素晴らしく美しい青眼は、いつか制作される女神の肉体を成す要素として、処女作に装着されていたのを引き剥がして厳重に保管された。
その代わりに、彼女に残った唯一の瞳が、くり抜かれて処女作の一部になった。病弱と年増で大した価値も無い内蔵、平均的な顔、汚く濁った灰色の髪は不良品として、女神の劣化版であるビザールレディの素材として利用された。
彼女の顔が、虚な空洞を二つ覗かせるだけの顔面と呼ぶには相応しくないものが、何処の誰のかもわからない胴体と乱雑に縫い繋げられるのを、ヘレンは黙って見ていた。
ぶつ切りになった固形物のミネルヴァを、さも無機物同然として扱う魔女の背中を、ヘレンは注視し続けた。機械作業のように縫合をしては傀儡を生産する魔女から目線を逸らさなかった。
ヘレンの恩人をぞんざいに扱う彼女を嫌った。ビザールレディという存在に疑問を抱きながらも、ヘレンは心中で確信した。ミネルヴァが犠牲になったのだから、セシアの招来は完遂しなければならないと。
そうでなければ。立ち止まってしまっては、今まで死んできた人々が何のために死んだのか、わからなくなってしまうから。
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