二十二年 四月 「朧」

 春になると大気中の水分が増加し万物が霞んで見えます。

 俳句の世界では、この現象を昼は「かすみ」と言い、夜は「おぼろ」と言い分けます。草朧、谷朧、岩朧、鐘の音に付けて鐘朧などと用いられます。(「俳句歳時記・春」角川書店 から引用)なお、「朧月」は別な季語です。




 街灯のひとつ点らず道朧みちおぼろ


 深夜、車も人も途絶えた湾岸道路。街灯が同じ間隔を開けて遙か遠くまで灯っていますが、ただひとつだけ消えたままの街灯があります。そこの闇が妙に深くて怖くて、来た道を引き返したくなりました。




 朧夜おぼろよの公園倒れた三輪車


 朧気おぼろげな夜の公園は別世界へと誘うランドマークのようです。

 昼間、どこかの坊やが乗り捨てていった、三輪車のタイヤがキイキイとひとりでに回ると、古いオルゴールのような音色で、忘れていた子守歌を奏で始めます。




 ☆☆ B1の出口登れば街朧


 池袋の地下街で迷って、それでも何とか目指してきた「B1」の出口を見つけて(B1ではなくて、1Bでした)暗い階段を登ってみれば、夜更けた街もネオンも朧に包まれて、約束のバーには辿り着けそうにありません。人入選でした。




 昼の霞は穏やかですが、夜の朧はなにやら妖しげです。

 たとえば次の句などは、怪談では。


 流されてもうないはずの橋朧  永瀬十悟

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