二十一年 十一月 「冬の海」

 真冬の玄界灘を見たいと言ったのはわたしでした。


 純粋な好奇心と怖いもの見たさから出掛けたのですが、これがとんでもなく寒い!

 真冬の玄界灘は荒れ狂う波と風で耳がおかしくなりました。

 駅を出るとすぐに浜辺でした。とたんにもの凄い風と寒さで、視界ゼロ。列車を降りたことを後悔しました。でも折角来たんだから海を見て帰ろうと、風に揉まれつつ浜辺へ行くと、何故か数頭の野良犬に取り囲まれました。みんな大きめな犬です。でも一頭も吠えません。尻尾を振って歓迎されました。冬の犬人懐こくて可愛いな。一句出来ました。同行した友だちとわたしが頭を撫でてやると「わーい、嬉しい、うれしい」と甘えて体を擦り付けるヤツと「わたしも撫でて」「わーい、暖かい」と他の犬を押しのけてコートを着た人間にこびを売るヤツに囲まれて動けません。

 だいたい何故に君たちはこんな寒い場所で通行人を待ち伏せているのか。下手したら通行人も君たちも凍えて死ぬぞ。悪いけど、今日死ぬ予定は無いから、わたしたちは帰るからな。海どころではなくなったので、縋りつく犬たちに冷たく別れを告げ(最後までシッポを振ってくれたのが不憫)駅前のコンビニに直行しました。

 無言で受け入れてくれる自動ドア。暖かい! 呼吸が楽に出来る! なぜわたしは泣いているんだ。

「肉まんとあんまん、二個ずつ下さい!」

 コンビニに尊いほどの有り難みを感じたのは、あれが初めてでした。




 立ち向かうテトラポッドよ冬の海


 荒れた冬の海を見てしまったせいか、岸壁に打ちつける波の激しさばかり頭に浮かびます。テトラポッドって大事なものなんだと改めて感じました。


 焼き芋の……と読みかけて季語に違いないと気づいてやめました。

 次第次第に慣れてきている。むふふ。(未提出の句。焼き芋の石は那智黒冬の海)


 海鳥は皆同じ向き冬の海


 博多の港で見たのですが、海鳥の大きいのも小さいのも、思い思いの場所に留まっているのですが、全員が風上に向いて坐っているのです。その方が風の抵抗が弱いのだろうと思ったわけですが、なんともユーモラスな光景でした。




 ☆☆ 旅枕闇に荒ぶる冬の海


 旅先で海辺の宿に泊まると、荒れる波音が耳について、恐ろしくて眠れなかった。という句で人入選でした。

                           つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る