二十一年 九月 「蟷螂」

 蟷螂はカマキリです。

 難読漢字で、どこがカマでどこがキリじゃ、と絡みたくなりますが、「とうろう」と読んで「蟷螂之斧とうろうのおの」という故事成語にもなっています。カマキリの前足は斧に似ていて、自分より大きな生き物にも平気で挑みかかるので、身の程知らずに立ち向かう愚かさ、無駄な抵抗、を意味します。この故事は「荘子」の(人間世篇)に出て来ますが、別の話では、荘子の車に恐れ気も無く向かって来た蟷螂を見た荘子が「これが人間ならば天下無双の勇士であったろうに」と言って、踏まないように車をよけさせたというもの。「韓詩外伝(巻八)」

 傍題は、蟷螂とうろう、鎌切、斧虫、いぼむしり。


「いぼむしり」ってなんだ? と調べたら、カマキリをイボにこすりつけるとイボが治るというカマキリにはあまりにも迷惑な俗説から来ているそうです。

 そんなカマキリに秋を感じろと言われても、人には向き不向きと言うものがあって、本当は逃げたいのですが、今回の兼題なので致し方ありません。この世には負けると分かっていても戦わなければならない戦いがあります。




 蟷螂やバス待つ列の四番目


 朝のバス停で列に並んだら、三番目と四番目の間が、妙に間隔を開けすぎているように見えるので、斜めから覗いてみたら、そこに大きめのカマキリがいて、ヒエ~って叫びそうになったよという句です。ボツだった。




 蟷螂や草の葉のごと緑なり


 若い蟷螂の体は透き通るように綺麗な緑です。草むらにいたら誰も気がつかないでしょう。「若竹のごと」と言いたかったのですが、季重なりになるので草の葉というぼんやりした例えになりました。ボツです。



 ☆☆ 蟷螂の仔や三分の鎌を振りかざす


 五円玉くらいの小さいカマキリの子が「来るか!」とでも言いたげに鎌(小さ過ぎて斧には見えない)を「エイ!」って振りかざす姿が、けなげで可愛かったという句です。「蟷螂の斧」と「一寸の虫にも五分の魂(どんなに小さな者にも意地も覚悟もあって、バカにしてはいけない)」を下敷きにしています。人入選でした。



*「蟷螂生まる」という夏の季語もあります。そちらは卵から団体でうようよ出て来るのが本意(ぎょえ~)なので、恐すぎて逃げました。

                   つづく

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