二十一年 六月 「虹」
虹には特筆すべき本意はありません。傍題に、朝虹、夕虹、二重虹があります。
虹には、希望、幸運、祝福などの言葉が浮かびます。聖書にはノアの大洪水のエピソードがありますが、人類のほとんどを滅ぼした雨が止んだとき、神様は空に虹を架け二度と大洪水は起こさないとノアに誓ったそうです。
虹遠し長患いの車椅子
入院が長引いている初老の女性が車椅子でロビーに出て来ました。今では車椅子の操作も慣れたものです。「○○さん、ほら、虹ですよ!」窓から空を眺めていた一団から声がかかり、見知らぬ中年の男性が車椅子を押して窓辺に寄せてくれました。
「ありがとうございます。ご親切に」丁寧に御礼を言ってから振り返ると、広い住宅街と街が尽きたところから始まる田園の向こうに、美しく虹がかかっていました。「綺麗ですね」「良いことあるかも知れませんね」皆、顔をほころばせています。(わたしにも良いことがあるかしら)女性はかえって暗い気持ちになります。するとその気持ちに気づいたかのように、さっきの男性がそっと肩に触れました。「大丈夫ですよ。僕は未来が見えるんです。絶対大丈夫!」その人の笑顔につられて女性もふっと微笑みを返しました。
野葡萄の七色の実より虹立ちぬ
野葡萄は十月頃に真っ黒く熟しますが、完熟する手前の色合いが実に美しく、白、ピンク、青、緑、紫など色とりどりの実が寄り添う姿はここから虹が立ってもふしぎではないほどに綺麗です。ただひとつの問題は野葡萄が秋の季語で、虹は夏の季語だという事です。季重なりだけれど、どうしてもこの句の通りに詠みたくて、敢えて季重なりにしましたが、抵抗虚しくボツでした。
☆☆
虹をよく観察すると、虹の外側よりも内側の方がほんのりと明るいんですよ。それが夕方の虹だと特に分かりやすいので、今度夕暮れに虹を見つけたら観察してみてくださいね。何故明るいかというと、虹を作る雨粒に太陽光が反射しているからなのですが、詳しくは後に譲ります。虹について熱く語った句が、なぜか人入選でした。
<虹について>
雨上がりなどに空中を漂う雨粒に太陽の光があたったとき、プリズムとなって太陽の光を分光して反射するのが虹です。赤、
つづく
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