二十一年 四月 「落花」

「落花」とは「桜の花が舞い散る様、または散り敷いた花びらをいう。桜の花は散り際が潔く美しいので古くからその風情を愛されてきた」(歳時記・春 角川書店)より引用。傍題には、散る桜、花吹雪、飛花、花散る、花屑、花の塵、花筏があります。こんなにも惜しまれて愛されて散る花は桜だけですね。儚く美しいものへの惜別の思いを詠むべきでしょう。




 落花一片旅立つ君の後襟


 別離の場面です。故郷に恋人を残して、若者が花吹雪の散る中を潔く赴任地に戻ってゆきます。そのコートの後襟に花びらが一枚舞い降りました。後ろ姿を見送る恋人は花びらにそっと嫉妬しました。




 ほこらうずむ落花すくえば香りける


 神社の境内の片隅にある小さな石造りの祠が、後から後から散りかかる桜にとうとう埋もれてしまいました。遊びに来た少女が気づいて、花びらを両手で掬っては捨て、掬っては捨てて祠を救い出すと、その両手に桜の匂いが香るのでした。その桜は山桜。ソメイヨシノもオオシマザクラも香りはほとんどありません。




 ☆ 空に降る落花追う子ののど白し


 公園のベンチにもたれて、仰向いて花吹雪を眺めていたら、舞い散る花びらが地面では無くて空に散り掛かっているように見えてきました。幼い少女は歓声をあげて花びらを追いかけます。その喉の白さは花のようでした。佳作入選。




 桜といえば桜餅ですが、あの包んでいる葉は何でもいいわけではなく、大島桜という品種の葉を塩漬けにしたものです。他の桜の葉より香りも強く葉も大きめだからです。葉でくるむのは乾燥防止の意味と、香りがお餅の風味をより引き立て、塩味が甘みのアクセントにもなるからだそうです。

 この葉っぱを食べる派、食べない派に分かれますが、全国和菓子協会では、なんと「食べない」を推奨していて「葉っぱを外したほうが、お餅の風味が増すから」とのことです。でも、わたしは食べるけどね。桜餅は葉っぱですよ。

                          つづく

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