二十一年 一月 「風花」

 風花かざはな。冬晴れの日に、青空から舞い降りる雪片のこと。

 以前に福岡市に暮らしていたことがあるのですが、真冬の青空から白い雪がひらりひらりと降りてきたときはとても不思議でした。雲の一片さえ無いのに、空の涙のような風花は山岳地帯の雪が上層の強風に乗って風下に飛来するものだそうです。降り始めの雪のことではありません。(俳句歳時記・冬 角川書店より引用) よし! 本意了解! 水鳥のてつは踏まずにいくぞ!




 風花の白さ目に凍む二の鳥居


 どこまでも青い冬晴れの空の下に古びた神社が佇んでいます。今日はどうしても叶えて欲しい願い事があって地元のこの神社に来たのです。境内の入り口にそびえる石造りの鳥居を見上げると、思いがけず真っ白な風花が舞い降りてきました。神様に願い事が届いたのかな。寒い日の出来事でした。




 風花の見下ろす古き街の屋根


 高い空をゆく風花が山裾の街を見下ろしています。風雨に晒されてきた黒い瓦屋根の続く街は、この地に千年以上の歴史を刻む古い街です。昔は栄えたものでしたが、近頃ではすっかりさびれて、暮らしているのは老人ばかりです。

 でも、いま、一軒の家から飛び出してきた幼い女の子は、空を見上げて風花を見つけると嬉しそうに笑いました。




 ☆☆ 風花や春には壊す旧校舎


 この町の小学校の歴史は古く、平屋の木造校舎は多くの思い出を知る数少ない証人の一人でした。これまで何度も地震や台風や、先の戦争の空襲にも耐えて来ました。磨き込まれた廊下も壁もつやつやと輝いていますが、さすがに築百年ともなると土台が傷み床が傾くようになりました。記念に残そうという意見も多くありましたが、大きな建物ですので維持費もかかることから、とうとう取り壊すことになりました。

 ひらりと風花がひとつ屋根に舞い降ります。「わたしもやっとお役御免だよ」校舎が満足そうにつぶやくと風花も「おつかれさまでした」と優しく答えました。

 人入選でした。

                          つづく

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