二十年 十一月 「ポインセチア」
このエピソードを書いているのは夏でミンミン蝉が鳴いていますが、今回の兼題は真冬の年末です。我慢大会みたいですが、そこは俳句スイッチを入れて切り抜けて下さいね。さて、いつの間にかクリスマスの鉢物としてポインセチアが定着しました。赤と深緑の葉の色あいが美しいクリスマスカラーです。今回は「クリスマス」ではなくて「ポインセチア」を詠みます。
病室のポインセチアに祈る夜
秋から入院した少女はクリスマスになっても家に帰れません。その夜、他の患者さん達の寝静まった病室で、早く元気になって家に帰れますようにと、お見舞いに貰ったポインセチアに祈ってみるのでした。ポインセチアの神聖な雰囲気が出せたらいいなと思いましたがボツでした。「病室」と「祈る夜」の取り合わせはありがちだったかな。
☆☆ 星の夜ポインセチアの窓明かし
それは真冬の降るような星の夜のことです。寒さに震えながら暗い夜道を急ぐ人たちは、一軒の家の前でふと足を止めます。明るい光が漏れる窓辺には、ポインセチアが飾られています。その美しさに胸が温かくなった人たちは、また足早に家路を辿るのでした。人入選でした。
☆☆ 派出所のポインセチアは忘れ物
クリスマスの夜、何気なく駅前の派出所を覗いた若者は目を疑いました。空いた椅子に立派なポインセチアの鉢が乗っていたからです。そのとき、奥の机で書き物をしていた中年の警察官と目が合います。若者はほろ酔いだったので、笑顔を惜しまず、明るく声を掛けました。
「メリークリスマス、おまわりさん」
「え? ああ、メリークリスマス」
「立派なポインセチアですね」
「ああ、これね。まいっちゃうよ。ほんとうに」
「どうしたんです?」
「忘れ物なんだよ。バスの停留所に置いてあったらしくてね」
「ああ、それで」
「なにが?」
「交番にポインセチアなんて珍しいなと思いましたよ」
若者と警察官は声を合わせて笑います。
「早く持ち主が来て欲しいよ」
警察官はため息をつきました。
「君も早く帰らないと風邪引くよ」
「そうですね。それじゃ、良いお年を!」
「はい。良いお年を」
若者を見送った警察官は目蓋をこすりました。いま若者の後ろ姿に一瞬白い翼が見えたような気がしたものですから。(人入選)
つづく
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