二十年 五月 「初夏」

 四月の兼題「蛙」は月末に急用があって提出できませんでした。

 幼い頃に庭で大きな植木鉢を持ち上げたら、その下に大きなガマガエルがいて(当時我が家に寄宿していた叔父の仕業と発覚)悲鳴すら出ない衝撃にトラウマをおった過去は聞かないで。「蛙」は春の季語ですが「雨蛙」は夏の季語です。「夕蛙」「土蛙」「初蛙」は「蛙」の傍題です。


 手の平を蹴ってさよなら夕蛙


 濡れた眼に映る青空土蛙


 初蛙池のおもての同心円



     * * *



 初夏は新暦五月頃。傍題には「夏初め」「夏きざす」「首夏しゅか」などがあります。青葉若葉が美しい頃ですね。




 初夏はつなつの日暮れて青き夕べかな


 初夏と言えば空。空の色は季節ごとに変わります。わたしは初夏の夕闇の空が大好きです。水をたっぷり含んだ夕空は夢見るようなとろりとした青さで、海底から仄かに明るい水面を眺めているような気持ちになります。この気持ちを俳句にするのはまだ修行が足りませんでした。



 並木道パラソル染める青葉かな


 初夏と言えば青葉。しかし、なんと! パラソルも青葉も夏の季語だったー(涙)白いパラソルを差して若葉萌える並木道を歩くと、日差しに透ける青葉の影がパラソルを彩って、まるで染められたように美しく映えるのです。でもボツ。青葉かパラソルを別の言葉で表現するとなると、どうしたらいいのだろう。



 ☆☆ 吾子あこ抱けば野原の匂い夏初め


 初夏と言えば子どもたちは外遊び。ただいまと帰って来た坊やを抱きしめると、葉っぱや土にまみれた髪からは(いったい何をして遊んで来たのかは訊くのがこわい)紛れもなく「野原の匂い」が香るのでした。「人」入選。



 (今日のおすすめ俳句本)


「覚えておきたい極めつけの名句1000」角川学術出版編


 どこかで聞いたことのある名句が一千句も紹介されています。

 お気に入りを一句紹介しますね。


 「念力のゆるめば死ぬる大暑かな  村上鬼城」


 この人は念力で暑さを押し戻しているんですよ。その気がふっと緩むと暑さがどっと襲ってきて「オレは死ぬんだ」って真面目な顔で言っているんですよ。多分その相手は自分の子どもで「お父さん、頑張って」って言われて「うむ。任せておけ」とか爽やかな笑顔で答えちゃったりしてるんですね。いいなあ。この句。

                              つづく

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