二十年 二月 「梅」
桜に先駆けてまず咲くのが梅の花。春の先触れです。
菅原道真が政敵の讒言に遭って九州の太宰府に左遷されたとき。
と、詠んだそうです。懐かしい屋敷を追われ、囚人のように太宰府に落ちてゆく道真には絶望しか無かったと言われていますが、この歌を読む限りではそんなことはないと思えませんか。
梅よ、梅よ、わたしは西にゆくんだ。おそらく戻ってくることはないだろう。
東から春風が吹いてきたら、花を咲かせて、お前の尊い匂いを、花の匂いを
春風に乗せて、わたしのいる西の太宰府まで届けておくれ。
わたしの姿が見えないからといって、泣いたりしないで、
春を忘れないでおくれ。わたしは春風の中にお前を探すだろう。
<はなはだしい意訳 来冬邦子>
日本人は梅が好きです。お正月の花といえば梅ではないでしょうか。
そんな華やぎと清らかさを頭に入れつつ梅のうたを詠みます。でも梅の句なんてゴマンとあります。個性的な句が詠めるでしょうか。(前回で取り合わせの作り方を書きましたが、ここではまだ出来ていません)
紅梅の蕾まどかに膨らみぬ
梅の美しさを詠もうとして、梅を思い浮かべれば、梅は蕾が可愛いです。お菓子のように愛らしい丸い玉。そのままにしておきたいような、咲いて欲しいような複雑な気持ちになります。しかし俳句としては、梅の蕾がふくらんで、それがどうしたと。句としての膨らみがないのでボツ。
雪のごと白梅散らす
梅の木の下を通ると、風も無いのに白梅の花びらが次々に降ってきます。ことによると花がそのままポトリと落ちてきます。見上げてみれば犯人はメジロです。花の蜜を吸って、あちらこちらと飛び回るので、時ならぬ花吹雪が舞ったのでした。でも白梅が散るのを雪に例える類句は星の数ほどあります。つまり発想が凡人。いくらメジロを難しい漢字でかいても凡人は凡人。ボツ。
☆☆ 星ともる梅の梢や夕間暮れ
もういっそ、梅が見えない時間帯を選んでみました。梅の木の無骨な黒いシルエットとかぐわしい梅の香り。肌寒い春の夕暮れです。夕映えの色はすっかり失せて夕闇が迫る頃、見上げた梅の木のシルエットの、ちょうど梢のところに、一番星の金星が輝き始めていた、という句です。「人」に入選しました。
見たままの梅を詠むにしても、梅に集中してしまうと世界が狭くなります。どこで、誰が、何を、どんなふうに見たのか、その場面を冷静に観察して写真のように読者に差し出せてはじめて、読者と感動が共有できるのではないでしょうか。だから自分の好きなものほど句に作りにくくて、この梅とか、後ででてくる猫とか、ほんとうに詠みにくかったです。
(今日のおすすめの一句)
遠足の列恐竜の骨の下 <山尾玉藻>
つづく
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