二十年 一月 「蒲団」

 まず蒲団が季語なのに驚きます。年中あるのに季節感を感じるだろうか。とは申せ夏には「夏蒲団」という季語がありますから、ただの蒲団なら冬の季語です。昔は今のような暖かい寝具も無かったことですから、真冬の蒲団には存在感、有り難さがあったのでしょう。



 陽の匂う蒲団ふくふく里帰り


 いつ帰省しても蒲団はふくふくと柔らかく暖かく、母がまめに干してくれているのが知れて心まで暖かくなるのです。わたしは、いつまでもこの人の娘なんだなとしみじみ思います。「里帰り」に決まった季節はありませんから季語ではありません。でもボツ。



 青空や三人分の蒲団干す


 今日は快晴です。家族全員の蒲団をベランダの手すりに掛けて干した、というだけの句です。蒲団干しで困るのはスペースの問題で、とくに狭い集合住宅では思うように干せず三人分とはいえ苦労します。さらっと十二音に収めてありますが大変なんです。それなのにボツ。「蒲団干す」は「蒲団」の傍題です。



 ☆☆ 青空や腕一杯の蒲団かな


 上の句と状況は同じなのですが。上の句が行動の説明に終始しているのに対して、この句は「蒲団干し」という言葉を使わずにその体感を詠んでいます。一枚一枚の蒲団を抱きしめてはベランダまで持っていく。その嬉しさ、晴れがましさが「青空」という明るさと「腕一杯」という大きさとで表現できたかな。出来てると良いなあ、というわけで「人」入選でした。


 この時期から俳句を詠むのが辛くなってきました。

 兼題の季語のことだけで俳句を詠むのを「一物仕立いちぶつじたて」といいますが、わたしの句はほとんどこちらです。ところが俳句にはもう一つの詠み方があります。季語以外の要素も入れて詠むことを「取り合わせ」といいます。こちらの方が詠み方としては易しいし面白いのです。

 典型的な型としては、上五かみご(最初の五文字)に四音の季語と切れ字の「や」をいれて、中七なかしち下五しもごに入れる五音の普通名詞を描写する七音を入れます。この中七下五では上五の季語とは無関係な情景を描きます。するとその配合に新しい衝撃が生まれます。その面白さは多くの名句を読めばよくわかります。時間がかかりましたが、わたしはやっと俳句の門の前に立ちました。



 (おすすめ俳句本)


「世界一わかりやすい 俳句の授業」夏井いつき<PHP研究所>

 夏井先生から直接教えて頂いているように対話形式で書かれています。課題が出て、それに挑戦し添削を受けるなかで俳句が身につくように工夫されています。こういうテレビから出て来た本はバカにしがち(わたしだけ?)ですが、わかりやすく俳句の基礎を学べる本です。しかしすぐに物足りなくなってしまうので他の本も紹介します。


「新版20週 俳句入門」藤田湘子<角川書店>

 「世界一わかりやすい……」でも夏井先生が紹介されていますが、同じ初心者に俳句を教える入門書でもかなり手強い本です。文章は読みやすいですが、読者に求められているものが段違いに深いです。内容はやはり課題に挑戦する形式です。わたしは現在この本を片手に勉強中です。

                                 つづく

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