十九年 八月 「桃」

 そんな。桃って言われても。桃見てしみじみしたことないし。

 俳句は感性のスイッチを切り替えないと作れない気がします。生活感をオフにして季節感をオンにしたらメモリを最高に上げる。

 秋にサンマ見ただけで号泣できるのが俳句スイッチです。


 

 桃や桃さき命のごとく抱く


 桃のあの柔らかいうぶ毛が愛しくて思わず抱きしめてしまったという句(その後、食べました)です。桃といえば、西遊記(孫悟空が活躍する中国の面白小説)で一個食べれば不老長寿になるという仙人の桃を孫悟空が食べ放題に食べちゃうと言うエピソードを思い出します。中国には桃が神聖なものというイメージがあります。日本にもその聖なる果物のイメージは流れてきていて、古事記で伊邪那岐イザナギ黄泉平坂ヨモツヒラサカで、桃の実を投げて黄泉の国の軍勢を追い払ったという話もありますね。あれは山桃の実だったようですが。



 白き桃剥けば真中に紅き芯


 桃の実は皮を剥くと真っ白なのに、その真ん中の芯は鮮やかに紅いのが不思議だなあ、というその感動を詠った句です。我ながら内容が薄い。そういえば子どもの頃、風邪を引いて寝込むと桃の缶詰を開けて貰って食べた記憶があります。桃はビタミンCやEが多いから病人に与えたのでしょうか。なんか御褒美的な雰囲気で(やった! 風邪引いて良かった)と喜んだ思い出があります。 なんでも生の桃より缶詰の桃の方が免疫力を高めるビタミンCが四倍で整腸作用もあるそうですよ。また桃缶買っとこう♪



 ☆☆ 紅き桃の川瀬を流れ寄りきたる


 桃だけでは動きが無いなと思って、川に流してみたら桃太郎のオープニングになってしまった句。詠み手はおばあさんですね。

 俳句は「説明」するのではなく「情景」を見たままに詠め、と夏井先生が仰っていましたが、この句はそれができてたのかな。なぜか「人」に入選しました。



 自信満々の句が選外で、自分では「なんじゃこりゃ」な句が入選することがよくあります。俳句というものを理解できていないからだと思います。毎回投句出来るのが三句だけなので、どれを選んだら良いか迷うのですが、結果を素直に喜んでいいのかも、悲喜こもごも。



(今日のおすすめ俳句本)

「一億人の季語入門」長谷川櫂 角川学芸ブックス

 一般向けの入門書で読みやすくてお勧めです。長谷川先生の文章は論理が明快で凜々しくて素敵です。目次をたどると(第一章 すべての季語に本意がある、第二章 「切れ」は季語を生かす、第三章 「惜しむ」ということ、第四章 時候の季語の落とし穴、……などなど。作者の俳句愛に溢れた一冊です。

                                  つづく


* * * 今回からは2エピソード同時公開です。

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