十九年 七月 「お盆」

 そんな折も折、我が俳句の師匠にして純愛作家の愛宕平九郎氏に「通販生活で俳句教室やってますよ」とタイムリーな情報をいただきました。


 さっそく入会した「俳句生活・よ句もわる句も」というふざけた名前の俳句投稿サイトの講師は憧れの夏井いつき先生でした。毎月出題される「兼題」のを使って俳句を作り、月末までに投句(一人三句まで)すると、上から「天」「地」「人」「佳作」に選別されて翌々月の十日に発表されます。「天」と「地」の句は講評とオマケが頂けます。それ以外は「わーい、人だ」「わーい、佳作だ」とささやかに喜ぶという趣向なのですが(佳作より出来の悪い句は発表されません)なにしろ人数が多いので自分の名前を見つけるまでがドキドキのワクワクです。


 季語っていうのは、その季節ならではのいろいろな事象を指します。例えば春なら桜、秋なら月。この季語を十七文字の中に詠み込まなければなりません。原則はひとつのみです。あえて複数になることもたまにあります。


 さて、七月の兼題は「お盆」とその傍題。季節は秋。

 「お盆」は新暦の七月十三日から十五日。東京などではそのまま新暦でお祀りしますが、地方では旧暦、または月遅れの新暦八月に行います。精霊棚しょうりょうだなには野菜やナスの牛やキュウリの馬を作ってご先祖様の魂にお供えします。



 苧殻をがらく細き煙や盂蘭うら盆会ぼんえ


 盂蘭盆会はお盆の正式名称です。わたしの家ではお盆と言えば玄関を開け放して、敷居の外に置いた素焼きのお皿の上で、苧柄というわらしべみたいのを焼いて、その煙を跨いで外から中へ、中から外へ、外から中へと一往復半してご先祖様の魂を家の中に(引きずり込み、じゃなくて)お迎えしたものでした。(帰りは逆)

 ああっ! しまった! 苧殻も秋の季語だった! だ!(>_<)



 盆提灯ぼんちょうちん持つ手の先の暗さかな


 お盆の入り、日が暮れると提灯を提げて、墓地までご先祖様をお迎えに行きます。

このとき帰り道では決して振り向いては行けませんよ。理由はいまあなたが心に思い描いた通りです。……どうしたの。なんで泣いてるの?



 ☆☆ 新盆や籐の座椅子は祖父の席


 またまた季語がふたつあります。秋の「盆」と夏の「籐椅子」です。「季重きがさなり」と言って普通はボツなんですが、「人」に入選しました。年中愛用していた籐椅子に季節の趣は無いからだろうと推測しました。もちろん「籐椅子」が夏の季語だなんてまったく気づかずに投句していたという、おまぬけでした。


 新盆というのは故人が亡くなって初めてのお盆のことです。いつもならこうして親戚が集まると、おじいちゃんはお気に入りの籐椅子に腰掛けてニコニコしてたんだけどなあ……。という句です。


 * 季語にはその変化形がいくつもあります。その変化形を「傍題」と呼びます。お盆なら盂蘭盆会、新盆、盆提灯などです。くわしくは「歳時記」に記載されています。というわけで俳句を詠むなら歳時記は必携です。


                              つづく

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