第4話 愚かな子供
「……」
固まったまま動けない。どうしてウミガメがうちに来ているのか。
ここは内陸部で、海まで車で行っても2時間はかかるのに。
てか、なんでウミガメが喋ってるんだ??
そんで、なんで私の名前を知ってるわけ?
それよりこのウミガメ、私のこと今鈍臭いって言った??
頭がぐるぐるして、ウミガメの頭の先を見た。
意外ととんがっている。
「…聞いてますかお嬢さん」
ウミガメは怪訝な顔をして言った。
はっとしてウミガメに視線を合わせた。
眉間にしわが寄っている。カメにも表情ってあるんだな。
私が口を利けないでいると、ウミガメはため息をついた。
「本当に聞いた通り、うすのろですな」
ん?えっまた馬鹿にされた?
会って1分でカメに2回もディスられるって何?
イラっとした感情が芽生えて言い返そうと思った時、
そこでやっと気づいた。ウミガメの後ろに大勢の人がいることに
「ご覧下さい!昨日から追跡していたウミガメが民家で立ち止まり、インターホンを押しました。完全な直立です。後ろ足で体重で支える様子は未だかつて観測されたことはありません!!世界で初めて映像に収めた、歴史的に貴重な瞬間です!!」
「はい、ウミガメが海から100km離れた地点まで上陸した、との記録はありませんので、ウミガメの生態の新たな一面を発見できたと言えるのではないでしょうか!」
テレビ局のカメラが5台ほど並び、アナウンサーがこちらに背を向けて話している。近所の人も知らない人も、うちの家の門を半円状に取り囲んでいる。
うちの門というより、カメを。
フラッシュがバシバシ焚かれ、遠慮なく写真を撮られる。
カメは目に刺さるほどの眩しい光を全く気にせず、眉をひそめて私を見ている。
わかんないわかんないまじでわかんない。なにこの状況。
テレビ局のカメラ、新聞社のカメラ、野次馬や近所の人のカメラ、
そしてカメが私の方を向いている。
血が下がる。なんだか寒い。なのに汗が出る。
私どうしたらいい?どうしたらいい、ママ?パパ?
「民家の住人でしょうか、ドアから少女が出てきました。制服を着ているところを見ると、中学生くらいでしょうか。ウミガメはこの少女に会いに来たのでしょうか」
アナウンサーが私を実況している。カメラが一層こちらを向く。
あ、髪。まぶた。寝起き。テレビ。スマホ。
やばい。
私の頭は突然クリアになった。
私はドアを閉めた。
バタン。
家に入り、玄関の下駄箱についてる鏡で自分の顔を確認する。
肩まであるひどいくせ毛が360度に広がり、パンパンの目のお世辞にも可愛いとは言えない女の子が映っている。
これで、テレビで、全国デビューで、新聞で、SNSで…
え、てゆーか亀が喋ったよね?
「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!」
外では大勢の人の声がする。
「少女は驚き、家に入ってしまったようです。…」
「少し亀に近寄ってみたいと思います!…」
「えーなにこれ原田さんち何かあるの?…」
「奥さん!見て亀が原田さんにピンポンしたのよ!…」
「やっべー見てコレ!めっちゃリツイートきた!俺バズったの初だわ!…」
薄ぼんやりした話し声の中ではっきりとカメの声がした。
「はあー全く、聞いていた以上に愚かな子供のようだ」
今宵は浮世を離れて 大山 十四英 @Orzan14a
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