59:裏切りのサーカス
放課後、学生寮。
俺は『りかぴょん』に連れられて、自分の部屋――姉小路さんとの相部屋のドアを、三日ぶりに叩いた。
「あら、あらあらあら、まあ! 本当に帰ってきてくださったのね、夜見寺さん!」
口元を上品に手で隠しつつ、姉小路美緒さんは最上級の驚きを見せてくれた。
俺の腕に抱きついたまま、『りかぴょん』もドヤ顔で胸を張る。
……てか何気に『りかぴょん』の胸も、ボリューミーでどっしりとした……悔しい、でもドキドキしちゃう!
「ね~、すごいでしょ~、みおっち~。りかもビックリしちゃったよ~」
「お手柄ですわね、梨花さん。それにしても夜見寺さん、どういう心変わりですの?」
俺はにっこりと――できるだけ底意地が悪く見えるように笑った。
「いや、フツーに飽きちゃったんで。ぼっちを救うお友達ごっことか、もういいかなって」
「まあ、お人好しかと思っていましたのに。意外と意地悪なことを仰るのね」
肩をすくめて、俺はソファにデンッと腰掛けた。
うわー、ふっかふか。お嬢様校はこういうとこ違うよな。
「あ、一応言っときますけど。わたし、オカルトとか、全然信じてないんで。 みんなには悪いけど、悪霊とかホント勘弁してくださいね」
「……ちょ、ちょっと、な、なにいってん、の?」
しゃしゃり出てきたな、『Kana』。
いいぞいいぞ。
「いや、どーせただの事故を大げさに騒いでるだけでしょ? まあ『見える』とか言ってる子が一番ヤバいけど」
「ば、馬鹿に……しないでっ! 『悪霊』の恐ろしさを、知らない、癖に」
「ま~ね、りかも~、カレピが骨折れられるまでは~信じてなかったし? ヨミっちの言うことも分かるわ~」
『Kana』、なんかいっつも蔑ろにされてんな……かわいそうになってきた。
「んで? えーと……『潰す会』でしたっけ? 結局何するんです?」
「やることはシンプルですわ。『千里眼』にはご自身の意志で、学園を去っていただく。それだけです」
自分の意志で、ってのが、こう、冷徹というか悪辣というか……腹の立つところだぜ。
「具体的には?」
「『空気づくり』ですわ。『あの方はこの学園にふさわしくない』と思えば、我が校の淑女達は熱心に活動してくださるので」
生徒会長とカリスマ読モJKとバレー部の元エースが扇動すれば、一般生徒なんて面白いように踊るんだろう。
彼女達は直接手は出さない。なんか、SNSも現実も大差ないな。
……ますますもってムカついてきたぞ。
「なるほど。で、わたしは、最後にあの子の心を折る係ってこと」
「ヨミっち、めっちゃ『千里眼』と仲よさげだし~。追い込まれたとこでそっちも拒絶されたら、流石に落ちるっしょ」
クソ。よしよし、殴るなよ俺。
ここで『りかぴょん』殴っても何も解決しないぞ。
「話は分かりました。問題は、それがわたしにとってどんな得になるか、ってことですね」
不意に。
顔面を狙うペットボトルを、俺はしっかりと受け止めた。
「……調子に乗らないでね、転校生」
「なにこれ、ご挨拶だなあ。久しぶりだね、篠束さん」
あぶねー、ちょっと忘れてた。
元バレーボール部のエース、篠束真美。
相変わらず無愛想でメンがヘラってそうだ。問答無用で不意打ちとは。
「まあ、いいですよ。みんなと知り合えただけで、学校生活はだいぶ楽になりそうだし?」
「……ええ、便宜は図りましょう。あなたが余計なことを言わない限りはね、夜見寺さん」
姉小路さんが頷いた。
……よし、こんなもんでいいだろう。仕込みは十分だ。
その場が解散した後は、不気味なぐらいいつもどおりの寮での一日。
食堂で夕食、談話室でおしゃべりに興じて、自室では姉小路さんからのエッチなお誘いを受け流し――
『悪霊』が現れたのは。
『りかぴょん』に大浴場へ連れ込まれた俺が、必死に正気を保とうとしていた。
その時だった。
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