39:スニーキング・ミッション

「いや、だから確認してくださいって。確かに槍度島警部補から連絡があって」

「分かった。そこにいろ。クソ、アイツどうやって外に連絡を……いいか、そっちで確認してくーー」


 と言いかけた刑事の脇腹に、雷電障壁サンダーシールドを纏わせたパンチ。

 がっくんがっくん痙攣する。


「何をーーお前、手を上げろッ」


 と銃を構えた刑事には、指先から放った極小雷電プチ・サンダーボルトを一発。

 びっこんびっこん踊る。


「一丁上がり、っと」


 失神した二人を手錠で縛ってガムテで目と口を塞ぎ、植え込みの中へ。

 良い夢を。


 ついでに通信機を奪って、インカムを耳につける。

 これで向こうの状況は筒抜けだ。


「全班、定時連絡」

「ドア前、異常なし」

「エレベーター上、異常なし」

「エレベーターホール、異常なし」

「正面玄関、異常なし――」


 ……おいおい、クズ警官は何人いるんだ、マジで。

 エザワを槍度島の所まで辿り着かせるなんて、ホントに出来るのか?


「今更何言ってんの! もう引き返せないじゃない。これぞ立派な犯罪だもん」


 ブリュンヒルデのツッコミに、俺は返す言葉もない。

 警官を殴って植え込みに捨てるのは……暴行? 公務執行妨害?

 まあとにかく、褒めてくれる人はいないよな。畜生。


「もうやるしかないか……通用口A、異常なし」


 低めの声色で定時連絡を入れると、俺は目の前のドアを開いた。


 まず地下の警備室に向かって、監視カメラを掌握する。

 そこら中に目があるんじゃ、動けないし。


(一応、俺はブリュンヒルデの手を掴んで姿を消すことは出来るんだけど)


 とはいえ、誰かを攻撃した時点で姿がバレるので、カメラを潰すに越したことはない。

 エザワの為にも潰しておいた方が良い。


「さ、早く早くー。警備室はこっちだったよ」


 ブリュンヒルデの先導で、カメラを避けながらホテルの通用路を進む。

 幸い、警備室までは誰にも会わなかった。


「すみません。こちらのホテルで保護中の槍度島警部補に報告がありまして」


 警備室のドア前にいた刑事も、鋭い目をしていた。

 マジでジャケットの脇が膨らんでる。うわー。


 きっとコイツも例の『クソ警官サークル』に所属しているんだろう。


「どこからだ?」

「本人から調査依頼があったと聞いてますが」


 刑事は、耳に嵌めたインカムに指を当てながら。


「あの野郎、また勝手な真似を……確認する。おい、お前、所属は?」


 居丈高な質問に答えるまでもなく。

 俺が放ったノーモーションの極小雷電プチ・サンダーボルトが、インカムと一緒に刑事の意識を粉砕した。


 膝からくずおれる男の体を抱きとめて、ゆっくりと横たえる。


「よし、ここまではセーフ」

「さっすが、清実ちゃん。警備室の中には三人いるからね。モニター見てる二人と、扉の横に待機してるのが一人」


 手慣れてるな、ブリュンヒルデ……


「戦と名前が付けば、何でもやるのが戦乙女ヴァルキリーなんで!」


 頼りになるぜ。こういう時だけ。


「聞こえてるんだけど」


 ……ブリュンヒルデの冷たい視線を無視して。

 俺はドアのノブを掴み、そこに魔法を仕掛けた。


 こんこん、とドアをノック。


「差し入れ、持ってきました」


 しばらくして、ドアの向こうで人が倒れる音。


(うーん、完璧)


 中級魔法、接触電撃スタン・トラップ

 武器とかドアノブとか、金属に電気を纏わせて、触った奴を感電させる。

 手を離したたあとも効果を持続させるのにコツが要る魔法だ。


(ダンジョンとかによくあるイメージだけど、こういう時はめっちゃ有効だな)


 倒れた刑事に誰かが駆け寄る。


 それを耳で確認したあと、俺はドアを蹴り開けた。

 倒れた刑事と介抱しようとした刑事を薙ぎ倒しながら。


「被疑者発見――ッ」

「残念、俺はエザワじゃない」


 問答無用の雷電障壁サンダーシールドパンチが、最後の一人をノックアウト!


「なっ、あ、ぅわあああああああッ」

「――――!!」


 まさかの四人目。

 テンパった喚き声と共に、銃声が二発。


「あれ? ごめん、もう一人増えてたみたい」


 呑気なこと言ってんじゃない、ブリュンヒルデ!


 銃弾は二つとも俺の脇腹に命中。

 もちろんダメージはないけど、叫び声と銃声はインカムを通して刑事達に伝わったはずだ。


「うるさい黙ってろ!」

「ひッ――」


 疾風迅雷ライトニングスピードで、四人目の顎をぶん殴った。

 脳震盪を起こした若い刑事の襟首を掴み、締め落とす。


「あー、バレちゃったか。どうする? エザワくん捕まえて逃げる?」

「お前、さっき散々引き返せないって言ってたろ……仕方ない、プランBで行くぞ」

「え? なにそれ初耳なんだけど」


 俺は、警備室のコンソールに向き直る。

 マルチモニターには動揺している刑事達の姿。何人かは、もうこちらに向かって動き出していた。

 様子を伺いつつ、目当てのものを探り当てる。


「Bだよ。Aじゃないヤツ」

「だから、具体的に何すんの? って!」


 俺は深く息を吸って、館内放送用のマイクをオンにする。


「――おいポリ公ども、よく聞け! 今からこのホテルは、俺達鷹月会の狩場だ!」

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