24:俺、完全に悪役なんですけど
ウノハラ・シノブさんは、倉庫の中二階に立つ俺と、一部始終をとらえていたビデオカメラを睨みつけると
「……どこの組の人間だ?」
一段低い声で、そう訊ねた。
てか、俺の方こそ訊きたいよ。
(あなたこそ、完全に刑事じゃなくてアウトローでしょ。拷問手慣れすぎじゃね?)
でもまあ、そうだよなあ、やっぱそう思うよなあ。
不祥事を撮影して刑事脅そうなんて、完全にアウトレイジな方々の手だもんね。
(まさか誰も、俺が
着てきてよかったスカジャン。刺繍が重くて、肩こるんだコレ。
「まあまあ、心当たりはいくらでもあるんじゃないですか?」
「私を脅迫するつもりか」
シノブさんが、顎でビデオカメラを示した。
確かに、これには彼女がツゲタニ・ユウスケくんをぶん殴っている動画が収められている。
『現職の刑事が殺害予告犯を私刑に!』
なんて、動画サイトで流すには格好のネタだと思わない? 俺もいよいよチューバーデビューかな?
「やだなあ、怖い顔しないでくださいよ。俺はあなたと仲良くしたいだけですから」
あはは、と笑ってみせる。
うん、俺、今めっちゃ悪役だな。薄い本の導入に出てくる男だな。
「……何が望みだ」
「そこにいる馬鹿で間抜けな殺害予告野郎、俺も大嫌いで死ねばいいとか思うんですけど、とりあえず開放してもらっていいですか?」
シノブさんが沈黙する。
こちらの目的を計りかねているのだろう。
(俺だって分からねえよ)
誰が好き好んで、ユウスケくんなんかのために、警官を脅そうって考える?
リアル警官なんて、ネットでイキってるヤツの二百倍は恐ろしいぞ。
「…………」
シノブさんは懐から出した折りたたみナイフ(って、えええ、そんなものまで持ってたの、超怖いんですけど、何この人)で、ユウスケくんの拘束ケーブルを切った。
「は? え? な、なになになに?」
開放感からか、意味不明な言葉を放つユウスケくん。
もう黙っててほしい。
と思ってたら、シノブさんが椅子ごと彼を蹴り倒してくれた。ありがとう。
ユウスケくんは、折れた足を抱えて床をのたうち回る。
そんな彼に、シノブさんは拳銃を突きつけた。
「カメラを持ってこい。でなければ、コイツの脚にぶち込むぞ」
警官の銃じゃない。ヤクザ映画でよく見るヤツだ。
足がつかないように使い捨てなのか。
(やっぱそう来るか)
流石に目論見が甘すぎたか。
結局、手荒な真似に出るしかないのか。
ああもう、畜生、なんでこんな危ない橋を渡らなきゃいけないんだ。
「別に渡してもいいんですけど、その前に動画アップしちゃってもいいですかね?」
俺はスカジャンのポケットからスマートフォンを取り出して、ビデオにつなぐ。
もちろんアップするつもりなんかないんだけど。
しかしシノブさんの手は早かった。
いつの間にかもう一丁が、こちらに向けられている。
(んなバカな……早撃ちガンマンかよ)
しかも、ユウスケくんの鼻先に銃弾を打ち込んで、
「持ってこい。次は無いぞ」
さて、どうしたものか。
ユウスケくんの脚が、穴だらけのリコーダーみたいになっちゃうのはかわいそうだ。流石に。
「分かった、分かりましたよ。渡します」
言って、俺はビデオカメラを一階に蹴り落とした。
「こっちまで取りに来てくれたらね」
そして、後腰に挟んでおいた拳銃を取り出す。
もちろん、部屋においてあったコスプレ用のモデルガンだ。
ダイ・ハードでブルース・ウィリスが使ってたヤツ。
「…………」
シノブさんは無言のまま、照準を外さない。
オイやめろよ、この人マジでターミネーターか何かじゃないのか。
「ちょっとちょっと清実ちゃん、大丈夫? 全然交渉進んでなくない?」
耳元でブリュンヒルデの声。俺も小声で応じる。
「あー……正直、シノブさん甘く見てた感あるわ」
「あの目つき、あたし知ってるよ。本物の戦士。生まれる時代を間違えたね、あの人」
だろうな。ヴァルキリーからもお墨付き。
この人に比べたら、俺なんかその辺のチンピラだ。
とにかく、この膠着状態をどうにかしないと、俺はともかく哀れなユウスケくんがどえらいことになってしまう……
その時。
まるで福音のように、着信音が鳴り響いた。
「――――!?」
シノブさんのスマホから――そしてもちろん俺のクローンスマホからも。
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