23:あの世でも詫び続けられますか?

 多分、その夜ユウスケくんは酒でも買いにコンビニへ向かったんだろう。

 SNSが炎上して人生が終わるかもしれないという恐怖は、かなりのストレスだったに違いない。

 彼には憂さ晴らしが必要だった。


 でも、それが仇になった。


 人気のない夜の道。

 シノブさんはユウスケくんを車ではねた後、連れ去った。


 四方津市の港湾地区。人目の少ない倉庫街。

 なかでも一番奥まった場所にある十八番倉庫。


 そのど真ん中で、ユウスケくんは目隠しをされ、椅子に縛り付けられていた。


 ぐったりとして動かない。

 顔は血まみれ、服もボロボロ。概ね死体のような様子。

 人間は車に轢かれたらこうなる、という見本だ。


 バケツで水をぶっかけられて、ようやくユウスケくんは目を醒ます。


「ゲホッ、ゴホッ……いて、え、な、え、なに、なになになに!? 何も見えねえんだけど!?」

「元気そうじゃないか。柘谷雄輔つげたにゆうすけくん」


 彼の前に立ちはだかるのは、黒いコートを羽織ったウノハラ・シノブさん。

 サングラスをかけたまま、じっとユウスケくんを見下ろしている。


「だ、あ、誰だオマエ……つか、いてぇんだけど、なんだこれマジいてえ、脚、折れてんじゃねえの、きゅ、救急車、救急車呼べよッ」


 ユウスケくんが唾を飛ばす。


「黙れ」


 シノブさんは彼を殴った。

 こめかみの辺りを、特殊警棒で一撃。


「――――」


 声にならないユウスケくんの悲鳴。


「お前のような馬鹿にはうんざりだ。自分が何をしたのか、一ミリも分かっていないクズ」

「は、ハァ? なんなんだ、テメ」


 またしても警棒。ユウスケくんの悲鳴が倉庫に響く。


「いいか? 未成年への脅迫。殺害予告。本来なら刑事事件だ。お前が反省した素振りを見せようと謝罪を口にしようと、彼女が心に負った傷は変わらない。罪は償ってもらう」

「あ、く、そ……オマエも、かよ……あのクソ、メスガキの、取り巻き……」

「……お前も?」


 ユウスケくんの言葉に、シノブさんが訝しげな声を上げた。


「オマエも、あのキモオタと一緒だろ! エリーの信者どもめ! 畜生、畜生、なんなんだよテメェら! 俺がそこまで悪いってのかよ! ちっとフザケただけじゃねえか! 調子乗ってるメスガキに世の中の厳しさ教えてやったんだよ、バーカ!」


 おおう、まだ吠えるのかユウスケくん。

 そこまでやられて心折れないのは、ちょっと尊敬するぞ。


「……先に、誰かに脅されたんだな」

「は、ハァ? グルなんじゃねえのかよ」


 まあそう思うよな。不正解だけど。


「そろそろ俺の出番だ、ブリュンヒルデ。これ以上放っておくと、ユウスケくんがどうなるか分からないし」

「了解。バレそうになったら、あたし出しゃばるからね」


 俺は頷いて、ブリュンヒルデの手をほどいた。


「――誰だ」


 シノブさんが、こちらを振り向いた。

 サングラス越しでも視線が痛い。


「お、バレちゃいましたねぇ」


 倉庫の中二階から、俺はニヤリと笑顔を振りまいた。

 傍らに立たせた、三脚付きのビデオカメラに体重を預けながら。

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