20:これでもう、クリアしたも同然

さてさて。


個人情報の一切合財を俺にピックアップされたユウスケくんの慌てっぷりったら、見ていて哀れに思うほどだった。

友達に相談、SNSアカウントの削除、無料相談窓口で弁護士に懇願、市警の生活安全課窓口でも半泣き……


俺は、メゾン・ヴァルハラの自室から、クローンスマホのカメラとマイクですべてを見届けていた。

どうやら脅しは効いたみたいだ。


「……清実ちゃん。言ってもいい?」

「なに?」

「なんていうか、エグい。やり方が」


ブリュンヒルデからは散々な言われよう。


「そうかなー」

「もっとこう、バシッとぶん殴って改心! とかすればいいのに」

「バシッと脳の電気状態をいじって記憶と感情を改ざんするとか?」

「だから、その発想! 発想が邪悪!」


まあ確かに、良い子は真似しちゃいけない、とは思う。


「ヤツがエリカさんにやったのと、同じようなことをやりかえしただけだよ。実際には個人情報公開はしてないし。それとも、遠距離から実家に雷撃サンダーボルトかました方が良かったのか?」

「……あー。清実ちゃんが勇者エインヘリヤルに選ばれた理由が、段々分かってきた気がするわ」


今のは褒め言葉だろ? な?


「とにかく、あとは無事期日がすぎるのを待てばいいって訳だ」


言いながら、俺はベッドに転がった。

ハンディ・ウルザブルンを起動させる。次の『変革力』で手に入れられる新しいスキルのリストを眺めて、色々と想像を広げていく。


ゲームとかでも、スキルツリーを前に色々悩むのが一番好きなんだよね、俺。


と。


「清実ちゃん。スマホまた鳴ってるよ」

「おやおや。今度は誰に泣きついたんだ、ユウスケくん」


そろそろ親に白状して怒られる頃だろうか。

ベッドサイドに置いてあったクローンスマホを起動させるが。


「……何も来てないぞ」

「あれ? でも、どっかでバイブの振動が……」


ブリュンヒルデは、備え付けてあったレトロな書き物机をゴソゴソと漁り始める。


「あ、これ! これ鳴ってるわ」


彼女が引っ張り出したのは、もう一つのクローンスマホ。

ウノハラ・シノブさんのものだ。


「まだ消去してなかったの? 清実ちゃんったら、なんかよからぬデータ探してたんでしょ、エッチなやつ。ああいうカタブツって、意外とスッゴイんだよねー、性欲」

「……確かに。あるなら見たい」


俺は起き上がって、ブリュンヒルデからスマホを奪い取る。


いやいやいやいや。

ダメだろそれは。流石に人として。

まあ、もうシノブさんの行動を追跡する必要はないし。

余計なトラブルになる前に、さっさと削除するか……


「……ちょっと待て」


待受画面に浮かび上がった、不穏なテキスト。


『例の予告犯の情報、手に入れました。いつやりますか? シノブ先輩』


目に入ってしまった以上は、無視できなかった。

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