18:愛は過積載
「帰宅は何時だ、夕食はいらない、次の週末はどうするんだ、何か困っていないか、最近は何してるんだ、勉強はしているのか、友達はできたか……」
「なにそれ、親からのメール?」
クローンスマホを覗き込みながら、ブリュンヒルデ。
「……スーツの女、ウノハラさんにメチャクチャな量のメッセージを送ってるな」
「えっ、じゃあこの女、エリカちゃんのストーカー? こんな格好で?」
「いや。多分、違うと思う」
ブリュンヒルデの直感が、一番正解に近い。
「分かったことが二つある」
「なに?」
「この人は、ウノハラさんの姉だ。ウノハラ・シノブさん」
俺はメッセージアプリやらメールボックスやらを片っ端からひっくり返しながら、
「そして、四方津市警に務める刑事だ」
それを確信した。
「……容疑者?」
「じゃないな、確実に」
どちらかと言えば、スーツの女――シノブさんは、俺達と同じ目的だろう。
妹のエリカさんを守りたくて、ここにいる。
異様に頻繁なメールも、多分その為だ。
(もし犯人なら、個人情報握ってやるつもりだったのに)
スマホから抜き取った情報で何をするかって?
ちょっとした話し合いをするだけで、別にひどいことはしない。
……相手がウノハラさんに二度と関わらないと誓うなら、だけど。
「――ちょっと、お姉ちゃん! なんでいるの⁉︎」
「お前こそどうしてこんなところにいる、エリカ。家にまっすぐ帰らず、そんなみっともない格好をして……何を考えている?」
撮影が一段落したのか、エリカさんがこちらへ、というか、シノブさんの元に駆け寄ってくる。
「う、うるさいな、お姉ちゃんには関係ないでしょ!?」
「状況が分かってないみたいだな。エリカ、お前は今危険なんだ。殺害予告が出てる。警察にも目立つようなことは控えろと言われたはずだ」
「だからなに!? 警察が動いてるんだったらいいじゃない! いちいち口出ししないで!」
エリカさん半泣きだ……。
一方で、シノブさんは顔が超怖い。この人いつもポーカーフェイスなのか?
「そういうことじゃない。お前自身が気をつけなければ、万が一の時に――」
「うるさい! なんなの、お姉ちゃん! なんでいつも私のやること否定するの!? 勉強も家事も全部ちゃんとやってるのに!」
「今はそういう話をしているんじゃない――」
「これは私の特別なの! 邪魔されたくないの! もう、どっか行ってよ! お姉ちゃん、ホント嫌い!」
エリカさんは、逃げ出すようにロッカールームへ。
その背中を見届けて、眉一つ動かさないシノブさん。
「……やっぱり、親子なの?」
「じゃないけど。まあ、似たようなもの……なのかな」
なんだろう、このやるせない気持ち。
勝手に感情移入してしまった。
「でも、そうか。殺害予告――SNSだよ! なんで最初に気付かなかったんだ」
「あー、えーと、あれだよね。サツガイ・ネット・サービスでしょ? 昨日見たアニメでやってた」
そんな殺伐としたサービスがあってたまるか。
と言いたいところだが、まあ、ネットだって人間社会だし。
呑気なコミュニティもあれば、そうでないところもある。誰かのメンタルを火だるまにして正義を語ったりとかな。
「誰かがウノハラさんを殺そうとしてるなら、SNSで絡みがある人かも、ってことだよ。殺害予告なんて、今どきSNSでしか出さないだろ」
「え、マジで? 殺害予告なんて重要なこと、ネットで? あたしが若い頃は、もっとこう、手袋投げたり、果たし状送ったり、家族の生首送りつけたり、なんかこう、アナログっていうか? 人のぬくもり? 的な感じだったけどなあ」
「……何時代の話だ」
適当にブリュンヒルデをあしらいながら、もう少しシノブさんのクローンスマホを漁る。
犯人ではないとわかった途端、罪悪感がすごいが。
「……おお、ビンゴ」
案の定だ。
シノブさんのスマホには、きちんと殺害予告の証拠が保存されていた。
SNSのアカウントと、スクリーンショット。
『ユースケ@コス写ガチ勢』から『エリー☆☆★』へのメッセージ履歴。
「……ここから探ってみるか」
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