8:俺、チート能力に目覚めました

「そういえば、まだ俺のチート能力の説明を聞いてないんだけど」


 夕焼けが滲む空を、ペガサスの背に乗って飛んでいく。

 なかなか悪くない気分。


 普通に騒ぎになりそうだけど、ヴァルキリー達は現世の人間には見えないらしい。

 彼女達に触れている限りは、転生阻止者フィルギアも見えなくなるとか。便利だな。


 原理を解説すると、霊素エーテルでできた霊体アストラル物質界マテリアル・プレーンと違う位相トポロジーに存在していて云々カンヌン……別にいいか、この話題。


「ああ、そうね。ごめんごめん。清実ちゃんが手に入れたのは、二つの力」


 手綱を握ったまま、ブリュンヒルデは器用にこちらを振り向いた。


「一つは、その身体。ウイルドって言って、要するに魔法で作られた仮の肉体なの。似たようなので言うと、ゴーレムとかホムンクルスみたいな感じ?」


 俺はぎょっとして、自分の手のひらを見た。

 子供の頃についた傷が残っている。


「元の身体は事故の時にダメになっちゃったからねー」


 これが仮の肉体?


「……よく出来てるなあ」

「入れた魂に合わせて、形が変わるんだよ。魔力じゃなければ傷つかないし、『変革力』を溜めれば強化もできるから、元の身体より便利なんじゃない?」


 なるほど、車に突っ込もうがガラスを引っ掛けようが無事な訳だ。


 はっとした。これはまさか!


「物理攻撃は無効! クエストクリアでレベルアップってことか! すごい、転生っぽいぞ!」

「そうそう。現代の子達は理解が早くて助かるわあ」


 急に老けたような口振りで、ブリュンヒルデ。

 何年ぐらい生きてるんだろうか。

 北欧神話? ってことは、少なくともバイキングの時代には既にいたんだよな。何百年前の話だ?


「で、もう一つは?」

「もちろん魔法だよ。さっき、カレンちゃん助けた時に使ってたでしょ」


 さっき? 使ってた?


「……足が速くなったやつ?」

「アレは中級魔法の疾風迅雷ライトニングスピードだね。身体の中に走る電気を強化して、動きを速くする魔法。神経速度のブーストアップ的な」


 俺は思い起こした。

 あの、体内に電撃が走ったような感覚を。


「だから、無駄乳女神――失礼、フレイアさんが清実ちゃんに渡したのは、多分、雷のルーンだと思うよ。ティールって、電気の神様の力を借りられるやつ」


 つまり、雷属性の魔法が使えるってことなのか。


「ティールさんったら、最近地上ですごい人気でしょ? マイティなんちゃら、とか。だからフレイアさんが選んだんじゃない? アイツ、おっぱいデカいくせに、そういうとこマメだし」


 それ多分、海の向こうで生まれたヒーローの話だろ。

 いや、日本でも人気だけどさ。一足先にラグナロクしちゃったけど。


 ともあれ。


「魔法の使い方とか、もっと詳しく知りたいんだけど」


 せっかくもらった力だ。クエストをこなすにしても、使わない手はない。


「えーと……多分、ウルザブルンに教本が入ってるんじゃなかったかな。それ、スクルドが置いてった板みたいなやつ」


 俺はなんとなく掴んだままだったタブレット――ウルザブルン? に目を落とした。


「マジか。電子書籍?」

「現世みたいに電気は使ってないけど、まあ、使い方は変わらないと思うよ」


 とりあえず指先でなぞってみる。

 表面に文字が浮かび上がる。何語だかわからないが、何となく読める。

 これもチートだろうか。


「これ、パスワードは?」

「多分かかってないはず。スクルド、超ズボラだし」

「うわ、マジだ。まあいっか。ええと、魔法の……教本は……」


 適当にタップを繰り返して、なんとなくそれっぽいタイトルが表示されると。


 ペガサスが目的地――イガワ・ミノリの元に到着するまで、俺はその内容に目を走らせていた。

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