7:24時間戦えますか?

 一体どこから現れたのか。


 大きすぎる白いローブを纏った、青い髪の少女。

 肩口までのショートカットという髪型と、ふっくらとした頬が、彼女をなおさら幼く見せる。

 美少女というか、美幼女というか。


「……誰?」

「どーも。わたし、スクルドですー。転生阻止者フィルギアの方のバックアップ担当ですー。よろしくでーす」


 舌っ足らずで間延びした喋り方。


 小学生が親のコスプレ衣装(魔女っ子)でもかっぱらってきたのかと思うが、そんなはずはない。

 ヴァルハラ関係者ということは、まあ、きっと神的なスピリチュアルなんだろう。


「達成感ついでに、お仕事もう一個、片付けてもらってもよいですー?」


 どこか眠たげな表情のまま、スクルドはタブレットPCみたいな板切れを掲げてみせた。


「あー、ごめーんスクルドちゃん、それ明日でもいい? あたしそろそろ定時だし、朝イチで対応するんで」

「特急案件なんですよー。サクッとやっつけてくださーい。わたしもー早く帰りたいのでー」


 グダグダのたまうブリュンヒルデを、スクルドはバッサリ。


 ヴァルハラにも定時とかあるのか。ていうか、どんな勤務形態なんだ、こいつら。シフト制か。


「次の転生候補者はー、イガワ・ミノリさーん。二十四歳の女性ですー」


 スクルドは妙に間延びした声で、手元の資料らしきものを読み上げる。


「えーとぉ、イガワさんはー、就職三年目の会社員でー、市内で一人暮らししててー、それからー」

「あー、うん。貸して。自分で読んだほうが早い」


 呆れ顔のブリュンヒルデが、資料というかタブレット? を奪い取った。


「へー、今夜十二時五分に死亡予定。んー、就職三年目ってことは、アレ? ストレス溜めこんで自殺とか?」

「どうでしょうー、今回は死因の情報がないのでぇ、なんともー」

「ちょっと、ちゃんと調べてよー」

「『運命の泉ウルザブルン』は確定事象以外は可能性しか示してくれないんですー。分岐剪定観測は進めてるんですけどー、多分、十二時には間に合わないんじゃないかな―」


 二人は呑気に会話を続けるが、だいぶ物騒な話だな。

 確定事象ってなんだ。

 つまり死ぬことが『確定』って意味か?


 イガワさん大丈夫なのか。知らない人だけど。


「とにかくまあなんとか対策して、イガワさんの死を食い止めてくださいー。ではよろしくーおつかれさまでしたー」


 開放感いっぱいの挨拶とともに、スクルドが足元の魔法陣に飲み込まれていった。

 おお。すごい。俺もアレに入れば異世界に行けるのでは。


「あーもう、ノルニルのやつら、マジで呑気っていうか……現場の苦労も考えろっつの、まったく」


 深い溜め息をついてから、ブリュンヒルデはペガサスを地上に呼び寄せた。

 白銀の鎧をがちゃつかせながら鞍にまたがって、


「さ、行こっか、清実ちゃん」

「えっ。俺も?」

「当たり前でしょ。あたしは現世に干渉できないんだってば。君以外に誰がイガワ・ミノリちゃんを救うのよ」


 何カジュアルに人の命託してくれちゃってんだよ。

 重いわ。責任が。


 とはいえ「定時なんで」と逃げるわけにも行かず。

 結局俺は、彼女の後ろ、ペガサスの尻辺りにまたがるのだった。


 乗馬なんてしたこと無いけど、落ちたりしないよな?

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