6:報酬はあの子の連絡先

「ちょっとアンタ、何なの!?」


 眉尻を釣り上げ、大股で近づいてくるギャル――アンドウ・カレン。


 ブリュンヒルデが言うには、俺は彼女を救ったらしい。

 不注意でダンプに轢かれるはずだった運命を、俺が変えた。


 とはいえ、見ず知らずの人を突き飛ばしてしまったのは事実な訳で。


「ごめん、いやその、えーと、君、スマホ見たまま赤信号に突っ込みそうだったから、あの」

「知ってる!!」


 わあ怒ってる。ですよね。

 あんなでっかいダンプに気付いてないわけない。


 俺、怒ってる女性が一番苦手なんです。

 ていうか、母さんとか姉さんとか妹が苦手なんだけど。


「アンタが助けてくれたんでしょ? ごめん、つか、ありがと!」


 え。


「あ、ええと、うん。どういたしまして……?」


 なんだこのギャル。何故キレ気味なんだ。

 照れ隠しか。ツンデレか。

 ちょっとめんどくさいタイプか。


「つかアンタこそ大丈夫なの? すっごい音してたけど」


 言われて思い出す。

 車のドアぶっ壊したんだった。体当たりで。


 自分の手で身体を確かめる。

 傷はない。たんこぶもない。血も出てない。

 頑丈すぎないか? これもチート?


「ええと。石頭なんだ、俺」


 なんだか分からないまま、適当にごまかす。


「……あのさ。連絡先教えて」

「えっ」

「頭打ったんでしょ? 後でなんかあったら困るじゃん! ウチも気分悪いし……」


 促されるまま、制服のポケットを漁って、スマホを……

 あれ。無い。

 そりゃそうか。俺も車に跳ねられたんだった。


 制服が無事なだけでもマシか……あれ、なんで制服だけは残ってるんだ?


 いや、他にも色々細かいことが気になってきたぞ。

 そもそも俺が死んでから時間が経ってるのか? 死人が家に帰っても大丈夫なのか? それから、ええと、


「……ごめん、俺もスマホ壊しちゃって」

「んじゃこれ、アタシの連絡先」


 代わりに渡された切れ端。

 確かに、カレンという名前と電話番号、そしてご丁寧にハートマークまで。


「で、こっち。書いて」


 そして、もう一枚渡された白紙。

 俺は仕方なく……本当に仕方なく必要に迫られて、名前と電話番号を書いた。

 死人の番号がまだ使えるのか、分からないけど。


「んじゃね。ホントありがと……キヨミくん」


 その上、にっこりと笑みまで残して。

 短いスカートを翻しながら、ギャル――カレンが去っていく。


 見届ける俺の顔を、ブリュンヒルデが覗き込んできた。


「どーよ、清実ちゃん」

「何がだよ」

「結構やる気になったでしょ? 転生阻止者フィルギアお仕事クエスト


 ニヤニヤと見下されたまま、素直に『はい』とは言いたくない。

 俺はとりあえずそっぽを向いて。


「あのー。ちょっといいですかー」


 そこに、もう一人の闖入者を見つけた。

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