から揚げにレモン


 居酒屋の定番といえば、って聞かれたら、から揚げって答えることにしてるんだけど、どう思う? ああ、同じ意見で嬉しいよ。

 定番はいいね。いろんな人が好きになるもの。とてもお手軽な、最大多数の最大幸福。素晴らしい。

 そんな素晴らしいものでも、しばしば人は争いの火種を見つけてしまうのは悲しいね。そう、それ。ホカホカ油のゆげをたてる皿の端に、必ず控えている、黄色いそいつ。

 どんなに圧倒的な量感で、幸福がそこに具現化していたとしても、ほんのちょっとしたことで人は身構えてしまう。かぐわしい揚げ物の香りより、かすかな柑橘類の刺激に反応してしまうんだね。

 この緊張状態を抜け出すのに、どうするのが正解なんだろう。そう考えることは、もちろん時には大切なんだけど。目の前に揚げたてのから揚げがある時に、そんな難しい問題を悠長に考察する暇なんてない。幸福の前に、議論とはかくも無力なものなんだよ。

 だから今はただ、それをはさんで向かい合う人たちの、了解だけで解決をはかろう。妥協だっていいじゃないか。その妥協をもたらすことこそ、定番の持つ力なんだと、そう思わない?

 さて、レモンをかけてもいいかな。

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詩で世界をやさしくできるかはわからないけれど、君と居酒屋に入ることはできる。 藤猫くする @ksr_723

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