第6話 終章
――こうして、平崎院
解決ではない。
あくまで終決である。
なぜなら、肝心の黒幕が警察などの治安機関に捕縛されてないのだから、その表現は不適切であった。
蓬莱院
その上、それに先立つ一連の傷害事件や騒動も、その黒幕の関与が疑われているのだ。
警察は全力でその黒幕たる貝塚
貝塚
その原因の大きな一端を担った緑川
緑川
「――ま、そう簡単に力が身につくほど、世の
これは、奇しくも、彼らと同じ病院に入院している平民のイジメられっ子たちを見舞いに来た際、それを知った猫田
そして、事の発端である平崎院
「――いいの? ホントに訴えなくても」
鈴村
「――はい。みなさんのおかげで僕の無実は晴れましたので、それだけで充分です。それに、仮に訴えが認められたとしても、待っているのは法廷での不毛な争いだけですから」
予想の範疇から一ミリも越えない、相変わらずな幼馴染の返答に、
「……せやなら、『小野寺
「それはイヤです。絶対に」
テーブル越しに向かい合っている
「……取り付くシマがないとはまさにこの事ね……」
「……でも、法廷で、その件が、解決、しても、根本的な、解決、には、ならない、と思う。色々な、意味で……」
「……
「……残りはすべて無罪同然の釈放。それも、その内訳は華族と士族のみで、平民はない。不当正当問わず、にな」
こちらの表情も深刻なそれに変えてつけ加える。特に、
「……結局、ニャにひとつ変わってニャいのね。あんニャことがあったのに、この世の
「……身分制度がある限り、これからも同じことが、変わらずに繰り返されていくでしょう。緑川くんのような、身分や立場の低い弱者がイジメられる……」
「……無くならへんかな、身分制度……」
何気なく、だが、怒気を込めてぼやいた
「……仮に無くなったとしても、イジメまでは無くならないと思います」
勇吾が悲観的な予想を口にしたのは、しばらく経ってからであった。
「――どうしてニャの?
「……同じ身分の間でも、イジメがありますから……」
自分と同じく、同じ身分の生徒からイジメを受けている
「……たしかに……」
「……そうね……」
『……………………』
一同の場に覆しようのない無力感が沈黙となって漂う。
――が、
「――でも、それがムダとは、決して思えません」
悲観論を唱え続けていた
「――なぜそう思えるんだ?」
今度は
「――身分制度さえ無くなれば、イジメまでは無くならなくても、減らせると思うからです」
その返答に、一同は目が覚めるような思いで目を見張らせる。
「――イジメの原因ランキング第一位は、全体の七割以上を占める身分差だからね。期待は充分できるわ」
「――それに、身分差があっても、仲良くして行けないとは、これも決して思えません」
「……それは、なんで……?」
「――だって、それが原因で今でも仲良くして行けてないようには、どう見ても見えないからです。
『…………あ…………』
「――だから、乗り越えられるはずです。身分や立場に関係なく。そのためにも、僕たちは、今の僕たちにできる事をしながら、僕たちのできる事をひとつでも多く増やして行きましょう。今回のように、みんなの力を合わせて――」
『……………………』
一同の場にふたたび訪れた今度の沈黙は、無力感からほど遠い距離にあった。一同は無言で自分以外の身分差がある仲間たちに一通り視線を巡らすと、
「――
「――なんで今まで気づかなかったんだろう。アタシとした事が」
「――ホンマ、不思議やで」
「……それだけ、自然、だった、ってこと。あたし、たちが、仲良く、なれた、のは……」
「――まるで奇蹟みたいニャ
「――この縁、これからも大切にして行かないとね」
「――ああ。そして、この縁を
口々に言い募る。それは、絶望や諦観とは無縁の、希望と活気にあふれた賑やかさであった。
「――よかった」
「――前回に続いていい演説やったで、
「――あの貝塚っていうヤツよりもはるかに素晴らしかったわ」
「――ありがとう、
(……貝塚……)
という名が、明るく晴れわたっていたはずの
「……………………」
それは
なぜなら、貝塚
警察がその|男の捜索と並行して身元を洗った結果であった。
その一員である
(……いったい、何者なの、あいつ……)
そこまで考えて、
自分の表情からいつの間にか笑みが消えていたことに……。
(――ちょっと『レイ』さん。今までどこにいて、なにをやっていたのですか――)
(――なに、ちょっとした退屈しのぎさ。そのがてらとして、超常特区へ出かけたまでだよ――)
『レイ』と呼ばれたその男は、悪気のない口調で相手に答える。
(――
(――趣味ってまだ続いていたのですか。珍しいですね。飽きっぽいあなたにしては――)
(――自分でもそう思うよ、『ワン』――)
(――自分で言わないでください――)
『ワン』と呼ばれた相手は、苦情気味な口調で応える。『レイ』は苦笑を浮かべて続ける。
(――どうせいつまで続くか、賭けでもしていたのだろう――)
(――ええ。『フォー』と『セブン』はこの時点で負けが確定しました――)
(――そうか。それは残念だ――)
(……それで、いつまで
(――そうだな。とりあえず、飽きるまでのつもりだが――)
(……その調子では、『スリー』や『ファイブ』も負けそうですね――)
(――お前の一人勝ちになりそうだな、『ワン』――)
(――いえいえ、油断はできません。まだ『ツー』と『シックス』が残ってますから――)
『ワン』は自分も賭けに参加している事実を、その対象に隠す素振りすら見せず、しれっと戒める。
(――もしよければお前に合わせて切り上げてもいいんだぞ。見返り次第だが――)
(――それでは賭けになりませんよ――)
(――賭け《ギャンブル》に
(――だからってそんなことをしたら賭けの醍醐味が失われてしまいます。つまらないことを持ちかけないでください――)
『ワン』が申し立てた明らかな苦情に、『レイ』は便乗する。
(――なら、こちらの気が済むまで趣味に興じさせてもらおうか――)
(……べつに構いませんが、なにがあったらただちに戻ってくださいね。テレタクを使ってでも――)
(――なにかありそうなのか。そっちで――)
(――さァ、どうでしょうかね。気になるなら、せめてこまめな連絡を寄こしてください。それでは――)
と、そっけなく言い残して、『ワン』からの
「――その様子では、私の手を借りるほどの事は起きてないようだな」
エスパーダから手を下ろした貝塚
「――さて、次はどうしたものかな――」
その瞳には、享楽的な光が鋭くチラついていた。
――完――
才能と志望が不一致な小野寺勇吾のしょーもない苦難4 -欲して止まない緑川健司の力への渇望- 赤城 努 @akagitsutomu
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