第5話 死闘と憎悪の果てに
二周目時代のおける超能力や超能力者の存在は、科学的には証明されたものの、
それらに頼らない純粋な
そこに住むだけで超能力や超脳力が発現すると言われている超常特区ですら、生粋の
しかもその少数派さえ、実用
そして、
むろん、
ホバーボードやホバーバイク、ホバーカーなどの乗り物がその代表格である。
それらに精神エネルギーを注入すると、接頭の名称通りに浮遊し、動力源として移動することができるのだ。
これは、精神エネルギーを込めるだけで
他にも、
だが、前述のとおり、これらはすべて、
つまり、それ以外の材質でできた物は、
触媒としても、物理運動させる対象物としても。
簡単に言えば、電磁石みたいなものである。一周目時代に存在していたとされる。
だが、緑川
前者はサイズ的に大きくて目立つため、後者は両者に限らず医学的に証明されているため、それぞれ考えられないからである。
――である以上、見物人たちの前で起きている事象に対して、導き出せる回答はひとつしかない。
緑川
「――くそっ! びくともしねェ! 動けっ! 動けってんだっ! オレの身体っ!」
「――ムダだよ、海音寺」
そんな
まるで自分をイジメる華族の子弟や子女たちのような、それは表情であった。
「――一度オレの
(――そりゃそうだろうな――)
それを背中で耳にした
だが、
「――さァ、どうしてやろうかなァ」
そうつぶやいた
まさに、まな板の
「――オレとしては、その悔しそうな
「~~~~~~~~っ!!」
「――そうそう。もっとだ。もっと悔しがれっ! トラウマになるほどになァ。思い知ったかっ! このオレの力をっ!」
「――はァ~ッ。最高の気分だ。生まれて初めてだぜ。これほどいい気分になったのは。まさに、力さまさまだぜ」
「~~てめェ、その力、どこで~~」
「――どこもなにも、最初から秘めていたのさ。このオレの中に」
「――この超常特区に住み続けたおかげで、オレついに覚醒したんだ。
「~~デタラメを言うな。キサマのような卑劣で下衆な平民にそんな力があってたまるかァ~~」
「――だが現にテメェは身動きが取れないでいる。このオレの力でな。それ以外になにがあるっていうんだ」
「~~~~~~~~っ!」
「――ま、当然だろう。このオレにこんな凄い力があるのは。お前ら華族や士族どもに思い知らせるために、天から授けられた力なんだからな。それをあいつが
「――
これも見物人たちの避難説得の最中に聞きとめた
「――さて、能書きはこれくらいにして、そろそろ終わりにしようか」
「――あの平崎院とかいうヤツのような
そのあと、アゴをつまんで考え込む。そして、ややあってから、
「――そうだ。アレをさせよう。アレならこれ以上ないくらいに屈辱的だ。プライドの高い傲慢チキな士族のオンナには」
名案とともに会心の笑みが表情に浮かぶ。
「~~なにをさせるつもりだ……」
「――土下座しろ。オレの足元で」
「――っ?!」
「――そしてオレの靴をなめろ。それで許してやる」
「――なっ?!」
見物人たちの避難説得と並行して聞いていた
「――さァ、早く返事しろ。オレの気が変わらねェうちに。今のオレはとても気分がいいからなァ。どうせお前にはそれしか選択肢がねェんだ。この圧倒的な力の差の前では」
「……………………」
「――オイオイ、この期に及んでまだ悩んでるのよ。そんな余地なんかどこにもねェっていうのに、弱い上に頭も悪ィとは、もう救いようがね――」
と、そこまで言ったところで、
ねっとりと泡立った半透明の液体が。
それは
「……………………」
それに触れたことですべてを悟った
「……………………」
何とも表現しがたい
恐怖とは無縁の表情と眼光であった。
それを確認した
嵐の前の静けさに等しい、危険を極めた一瞬だった。
そして、その一瞬が過ぎ去った直後、その嵐が起こった。
人間の形をした人工の嵐が。
「――――――――――――――――っ!!」
無風にも関わらず、屋敷の庭園に吹き荒れる。
庭園に
地面に、塀に、壁に、樹木に、さまざまな物体に順序よく叩きつけられる。
何度も何度も何度も何度もっ!
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
その都度、地面が揺れ、塀が陥没し、壁が壊れ、樹木がなぎ倒される。
人工の嵐に乗っている一個の人体によって。
平崎院
「……な、なに、これ? いったい、なにが起きてるの?」
目の前の庭園で起きている事態に、
そんな
そしてそれは遂に見物人たちにも及んだ。
「キャアァッ!」
叩きつけらた見物人の女子の一人が、悲鳴を上げて吹っ飛ばされる。その光景を見て、他の見物人たちはようやく事態を把握する――と同時にバニックになる。だが、
「――ええいっ、なんてことだっ!」
屋敷の門で、
「――なに立ち止まってるのよっ! ここも危ないわ。アンタも早く――」
「――しかし、まだケガ人が庭園に――」
と、
「――気持ちはわかるけど、かといってアタシたちが助けに行っても、ミイラ取りがミイラになるだけよ。ここはこらえて、
「……くっ!」
諭された
「――それならアタイたちに任せるニャ」
「……あたし、も……」
意識が不鮮明な
「……わかった。頼むぞ」
託すようにうなずく。武術トーナメントで好成績を残した二人なら、おそらく大丈夫だろうと判断して。
「――あれ? そういえば、小野寺くんと
「――まさか、まだ庭園に――」
――その頃、その庭園では、人間の形をした人工の嵐が、ようやく収まっていた。
「――チッ、ナメたマネしやがって」
その張本人である
そして、
――否、立たされているのだ。
全身は血と汚泥に覆われていて、見るに耐えられないズタボロな状態であった。
庭園に横たわっている平崎院
叩きつけた本人も数えきれないくらいに様々な物体に
幼児が乱暴に振り回すオモチャよろしく。
死亡は確実であった。
硬氣功を使っていなければ。
「――フン、まだ息があるのかよ。しぶといヤロウだなァ」
だが、それでもダメージを減殺することはできなかった。
錬氣功ほど得意ではないとはいえ、数えきれないくらいに様々な物体に叩きつけられたその衝撃と摩擦に、
それだけ
もはや、
生きているのが不思議なほどに。
「――だが、いい気味だぜ。周囲から強いヤツだと持ち上げられていたヤツが、ここまでみじめな姿にされて。しかも、その姿にしたヤツが、弱いだの卑怯だの卑劣だのと散々バカにしやがったオレの手によってときた。これほど愉快で痛快なことはねぇぜ。どうだ、思い知ったかっ! このオレの力をっ!」
「――しょせん、この世は弱肉強食。力こそすべて。それがこの世の摂理。弱いヤツは強いヤツになにをされてもしかたねェんだ。てめェだってその信奉者なんだろう」
「……………………」
「――オレもそうだ。いつか強者と弱者の立場が逆転することを願ってなァ。そしてそれはついに実現した。オレはうれしいぜ。念願の強者の側になれて。どうだ。弱者の側になってしまった感想は?」
そのあとだった。
「……………………」
そして、その横顔についた液体を、付着させた自分の指先を見て確認する。
それは血であった。
しかし、
その所有者が吹きつけたのだ。
微量の
一度ならず、二度までも。
「……………………」
無言で
血とアザと傷だらけの顔を上げて。
あそこまで徹底的に痛めつけられたにも関わらず。
「……てめェ……」
睨み返した
今度こそ間違いなく死ぬ。
庭園に残っている者のだれもがそう思った。
そして、人の形をした人工の嵐が、再度巻き起こる。
――直前、
「――もうやめてくださいっ! 緑川くんっ!」
悲鳴よりも悲痛な叫びが、制止の矢となって
「――てめェは――」
その姿を認めた
「――いくらなんでもひどすぎますっ! あなたにとって快くない
それは、糸目が特徴的な同年代の男子――小野寺
「――釈放されたと聞いていたが、まさかてめェも見物に来ていたとはなァ。――ってことは、
表情を元に戻した
「――この隙に負傷者を助けるニャ、
「……わかった、
屋敷の門をくぐった二人の女子が、庭園のあちこちで横たわっている見物人たちに、それぞれ駆け寄る。本当ははぐれてしまった
「――アンタなにやってるのよっ! 早く逃げなさいっ! ここは危険よっ!」
もう一人の
「――ちょっと邪魔しないでよっ! 今、いい
だが、その無傷の女子――下村
「――あの海音寺
「なに言ってるのよっ! そんなことしてる場合じゃないでしょうがっ! あの
そのスクープ映像を録っている
「……お願いですから、やめてください。こんなことをしても、なにも変わりはしません……」
「――いや、変わるさ。変えてみせる――というより、もうすでに変わったんだ。強者と弱者の立場が逆転したことでなァ。なのに、これを変わったと言えねェっていうのか? てめェは」
「……はい。根本的な意味で……」
「――だって、ここまでされた海音寺さんが、あなたに復讐しないとはとても思えないからです。きっといま以上の力をつけて
「――返り討ちにするまでさ。当然だろ、そんなの」
「……返り討ちにできなかったら?」
「――その時はいま以上の力をあいつに要求して
「……そんなの、際限のないイタチごっこではありませんか……」
それを見聞きした
「……憎い相手よりも強い力を追い求め続けたその先に、いったいなにが待っているというのですか。ボクには明るい未来が待っているとは、到底思えません。憎しみは憎しみしか呼ばないというのに。今のあなたは、あなたをイジメるいじめっ子たちと同類にしか、ボクには見えません。それでいいのですか」
「――じゃあ、なにか。それじゃ、てめェは、このままやられっぱなしでいろとでも言うのか。今まで通り」
「――オレはイヤだね。絶対に。てめェはよくてもよォ。てめェはイジメられっ子根性がついているから、そんなの屁でもねェだろうからなァ。士族のくせに情けねェぜ」
「……そんなこと、ありません。やはり、イジメられるのはつらいです」
「――だろ。お前が武術トーナメントに参加したのも、お前をイジメるイジメっ子どもを見返してやるためだったんだろう。そいつらを凌ぐ力を見せつけることで。もっとも、優勝しても、それがマグレじゃ、無意味どころか、逆効果でしかねェだろうがなァ」
「……………………」
「――そうだ。なら、お前にも分けてやろう。その力を――」
と、唐突に持ちかける。恐らく、
「――あいつなら、このオレのように、お前に合った力を見繕って強くしてくれるだろう。武術トーナメントで優勝したような、マグレに頼った頼りない力ではない方の力を――」
「……………………」
「――だから来い。オレたちのところへ。そして、思い知らせてやろうぜ。オレたちの強さを、オレたちをイジメるヤツらに。身分は違えど、その思いは同じなんだからさァ」
「……………………」
「――別にためらう理由はねェだろう。お前が欲しがっている力が、すぐ目の前にぶら下がってるんだぜ。こんな
「――します……」
「――あァ!? いまなんつった?」
「……お断りします……」
「…………なんだって…………?」
「――お断りしますと言ったんですっ!」
「――あなたみたいに、相手を痛めつけるためだけの力なんて、ボクは要りません。そんなの、強さなんかじゃありませんっ! ただの暴力ですっ!」
そして、万感の思いを込めて叫ぶ。
「――それに、ボクが欲しいのは力でも強さでもありませんっ! 勇気ですっ! 力や強さなどに裏打ちされない、純然たる勇気がっ!」
渇望の叫びを上げる
「――そしてそれは、ギアプのように、他者から与えられるものではありません。自分の
そう言った後、なぎ払った右手を自分の胸に置いたその姿は、まるで祈るかのようであった。
「……
「……そうか。要らねェっていうのか……」
「――じゃ、勝手にしろォッ!!」
そして、
むろん、
「――
「――ふんっ! バカなヤロウだぜ。もう二度と来ない
それを見届けた
「――なにが勇気だ。くだらねェ。そんなもん、力の前になんの役に立つってんだよ。せっかくのオレの好意を断りやがって。もう知るか。てめェなんか」
そして、身捨てるように視線を外す。
「――さて、これからどうしようか」
「――そうだ。今までこのオレを散々イジメやがった華族の子弟や子女どもが残っていたぜ」
その対象をあらたに見出す。
「――あと、オレと同じ身分と境遇でありながら逆恨みしやがったイジメられっ子の連中にも思い知らせねェとな。それと、あいつやアイツ――あ、あいつにも――」
それも、際限なく。
そこへ――
「――おまいかっ! 平崎院の屋敷で暴れとる少年っちゅうのはっ!」
非難がましい確認の詰問が飛んで来た。
「――もうやめろっ! 警察が来おおったからには、これ以上の狼藉は許さへんでっ!」
その中央に立っている集団のリーダーらしき男子が、相手に抵抗の断念を強制する脅しを発する。
それを関西弁で実行する超常特区の警察官と言えば、龍堂寺
(――しかし、なんて惨状なんや――)
半壊した平崎院
「――おそいニャ、龍堂寺。今までなにをしてたニャ――」
負傷者を背負っている
「――そないなこと
「……気を、つけ、て。あの、
「――わかっとる、浜崎寺。
「……それも、相当強力な……」
そうつけ加えた
「――ちっ。面倒なヤツらが来やがったぜ」
その間、平崎院
「――まァ、いい。オレの力で蹴散らしてやる。オレがイジメられている時にかぎって助けに来ねェ役立たずな連中なんざ、それこそ要らねェぜっ!」
そして、そのように思い直すと、心の底からこみ上げて来た怒りを声に出して噴出させる。
「――抵抗する気なら容赦なく発砲するでェッ! 大人しゅうせいっ!」
「――うるせェッ! このオレに命令するなァッ!!」
その直後であった。
庭園の地面が上下左右にゆれ出したのは。
目の前の光景を見て。
それは、信じられない光景であった。
庭園を彩っているありとあらゆる
大小問わず、無数に。
「――アカンっ! これはヤバいっ!」
垂直に浮遊した無数の破片や瓦礫は、いったん宙に止まる。
嵐の前の静けささながらに。
「――全員、回避ィッ!! 物陰に隠れるんヤァッ!!」
その命令を
「――キャアァッ!!」
平崎院
凄まじい轟音と爆風にあおられて。
「……なんて力だ……」
平崎院
「……
ようやく意識が回復した
「……助けないと……」
我に返ると、おぼつかない足取りで走り出す。
「――ダメよ、
それを、
「――あなたも
「……でも……」
全身粉塵まみれの上に息絶え絶えの状態で、命からがらとはまさにこの事を指していた。
だが、その少女は
ジャーナリストの下村
「――どうなってるのっ!? いったい――」
「――ちょっと待ちなさいよっ! 逃げるのなら、せめてアタシたちに屋敷内の状況を説明してからに――」
だが、
ジャーナリストとしての使命を現場にかなぐり捨てて……。
『……………………』
そんな
そうしている間にも、平崎院
「――ハハハハハハハハッ! どうしたどうしたっ! もっと抵抗してオレを
それらを引き起こしている張本人は、麻薬中毒者よろしく、ハイな状態で庭園の
むろん、狙いも当てずっぽうで、当人すら相手を認識していない。
無差別攻撃も当然であることも。
完全に自分の力に酔っていた。
庭園に舞い上がった砂塵がここまで高密度では。
そして、手近に投げる物がなくなると、爆風と轟音はようやく収まった。
それにともない、舞い上がった砂塵の密度は次第に薄くなる。
庭園につかの間の静寂が宿る。
反攻の気配はどこにも感じられなかった。
「――フッ。なんだ。もう終わりか。あっけねェなァ」
「――ま、それだけオレの力が強大だってことだな」
それを確認すると、満面の笑みを浮かべて独語する。
「――クククク。そうだとも。無敵の力を手に入れたオレに、怖いものなんざねェんだ。なんせ弱肉強食の
「――はぁーっはっはッハっハッ! ハァーッはっはッハっハッ!」
そして、顔を上げて大声で笑い出す。
静寂な空気が無慈悲なまでに引き裂かれる。
「……しっかりするニャ、
弱々しい声が聴こえて来たのは、そんな時であった。
「……
地面に伏している病弱で虚弱体質な友達を、
水平に飛来した破片と瓦礫の豪雨から、自身を盾にして。
普通なら即死は必至であったが、直前に硬氣功を全身に張りめぐらせていたので、落命はしなかったものの、
硬氣功だけなら、
「――なんだ。もしかして、お前らをかばったのか、こいつ――」
そこへ、
罪悪感の欠片もない表情で
「――だとしたら、バカなヤロウだぜ。そんな力があるくらいなら、こんな弱いヤツらなんかほっといて、一人で逃げた方が賢明だろうに」
「――ニャんだとォ~ッ?!」
「――その病弱な
「――だまりなさいっ! アタシたちをかばってくれたアタシの友達をバカにしないでっ!」
「――アンタだってついこの間まではこんな目にあわされていたのよっ! その辛さは誰よりも身をもって知っているはずなのに、どうしてそんなことが言えるのっ!」
「――そんなことしてもなんの
「――しょせん、この世は弱肉強食。力こそがすべて。弱者なんざ強者の糧にしかならねェんだよ。オレはそれを教えれられたんだ。オレをイジメる華族の子弟や子女どもから、イヤというほどになァ」
「――それは違うわ。だって
「うるせェッ! ごちゃゴチャと言いやがって。弱者が強者に意見するんじゃねェッ!!」
「――てめェら弱者はだまって強者のされるがままにすりゃいいんだよォッ! いい加減にしねェと、てめェも海音寺や平崎院のような目に遭わせるぞォッ!」
その脅迫に、
「――そうだ。その
「忘れるなとでも言いたいのか?」
「――だれだっ!?」
驚いた
庭園を覆いつくしていた砂塵は、この時になってようやく収まり、視界が
しかし、その庭園は原型の面影すらない瓦礫の更地と化してしまっていた。
壁や塀はほとんど残っておらず、屋敷も半壊し、樹木にいたっては根こそぎ持っていかれ、どこにも見当たらなかった。
立っている者は、
緑川
――に、もう一人……。
それが、
「――テメェは――」
毅然とたたずむその人物と正対して。
「――そういえば、まだ見かけてなかったなァ」
眼光もそれに相応しいぎらつきを放つ。
「――やっと姿を現したか。てっきり
陸上防衛高等学校の
「……アニャタは……」
先日、陸上競技場で初めて顔を合わせた、噂に名高い少年との再会を、思わぬ場所で果たしたことで。
「――――――――っ!!」
「――ヤマトタケルッ!」
と、叫んで。
「――すいぶんとやりたい放題やってくれたなァ」
タケルは静かな怒りを湛えた表情と口調で
「――この
だが、
「――はっ! だからなんだよっ! そんなもん、踏み倒してやるっ! このオレの力でなっ!」
胸を張って豪語する
「――そうさ、力さえあれば、なにをやったって許されるんだ。しょせん、この世は――」
「弱肉強食。力こそすべて、か」
タケルはまたもや相手のセリフを先取りする。
「――ああ、その通りさ。弱者は強者に何をされても文句は言えねェんだ。そういう仕組みになってるんだからな、この世の中は」
「……オレさァ、お前みたいな主義や主張を高々と掲げて振り回すヤツを、イヤっていうほど知ってるんだよ。まァ、その大半は小さい頃から親父やお袋に聞かされて知った第二次幕末の頃の昔話なんだけどさァ。そしてな、オレはその都度疑問に思うんだよ」
ここでいったん言葉を切ると、しばらくの間を置いてから、ふたたび口を開く。
「――どうしてそんなに退化したがるのかなって?」
「――退化だとォ?!」
聞き捨てならないタケルのセリフに、
「――だってそうだろう。それってただの自然の摂理じゃねェか。オレたちは人間だぜ。自然に生きる野生の動物じゃねェんだぞ。せっかく弱肉強食という無慈悲な自然の摂理からの脱却に成功し、
思いも寄らぬタケルの見解と論法に、
「……じゃ、なんだよ? テメェが言う、決定的な進化っていうのは」
押し殺した声で問いただしたのは、だいぶ
「――そりゃ決まってんだろ」
タケルは当然のごとく答えた。
「――強者の自制と弱者の救済さ」
それは、弱肉強食とは真逆というべき内容であった。
「――お前の言う世の中とやらをよく見てみろよ。人間以外でこれらを実践している生物って他に存在するか? 少なくてもオレは知らねェなァ」
そして、身振り手振りを交えて持論を展開する。
「――これらの行為は
それは、辛辣極まりない評論と感想であった。
「~~オレは野生動物以下だと言いてェのかァ~~」
「――別にお前だけに限ったことじゃねェさ。お前をイジメていたあの華族の子弟や子女も同類だよ。
タケルの正体を知っている
「――だから、オレはお前を止める。これ以上、弱者たちを傷つけさせないためにも。そして、強者が振るう暴力は、たとえ誰だろうと、誰に対しても決して許さない。これこそ強者の使命ってヤツだ。エラそうに言わせてもらうとすればな」
「――おもしれェッ! やれるもんならやって見ろォッ!!」
両者の間に殺気立った空気が張りつめる。
――までもなく、タケルは半壊した屋敷の壁に叩きつけられた。
緑川
咆えると同時に解き放ったのだ。
「――タケルっ!!」
「――ハァーッはっはッハっハッ! 口ほどにもねェぜっ! 散々エラそうなことほざきやがって。なにが強者の自制だっ! なにが弱者の救済だっ! そんなもん、それこそ
それに対して、
屋敷の壁に深くめり込んだタケルの身体や手足は、奇怪な角度で折れ曲がっている。
骨折は必至であった。
人体なら。
「――なっ?!」
そして、その後に起きた光景を見て、
タケルの人体が青白色に発光し、溶け込むように消滅したのだ。
壁にそんな形でついた人体の痕を残して。
「――
一部始終を見ていた
「――じゃ、本体はどこニャッ!」
長大な青白色の剣閃がそこの空気をなぎ払ったのは、その直後であった。
間一髪――否、間半髪と言ってよかった。
それだけきわどかったのだ。
タケルの早斬りを回避するのが。
「……くっ、躱されたか……」
タケルは悔しさに舌打ちしかけながらも、
「――大丈夫かっ!?」
「……アタイと
「……負傷者が多すぎて、全員助け切れねェ……」
瓦礫の更地と化した庭園を見回して、タケルは苦々しい表情と声でつぶやくが、いつまでもそんなことをしているわけにはいかなかった。こんな状態にした張本人を、タケルは見やる。
――正確には『見上げる』、だが。
「――ふぅ、あぶねェアブネぇ……」
タケルたちを見下ろしながら。
「――宙に浮いてるっ?!」
足場のない空間にたたずむ
「――別に驚くことでも不思議でもニャいニャ。
同じく見上げている
「――危うくやられるところだったぜ」
上空に回避した
「――精神エネルギーの消費がさらに激しくなるが、これも使っておくか。念のために」
上空を浮遊している
「……くっ、どうすれば……」
有効な策が見出せず、歯ぎしりするタケル。
――の右側面から――
「――もろうたっ!」
という声が上がった。
それも、歓喜に満ちた。
上空にいる
『――龍堂寺っ!?』
の、姿を認めて思わずハモらせる。
全身自身の血と砂塵で彩られていたが、その傷だらけの
両手で構えている
青白い閃弾が
それを見て、タケルは
――のに、
青白色の閃弾は
『――なっ?!』
図らずも、驚愕の呻きを同時に漏らす四人の少年少女。そして、その謎にいち早く気づいたタケルが、
「……ビーム
と、言い当てる。
「――さっさと張っておいて正解だったぜ。空中に飛んだら、格好の的になっちまうからな。特に射撃の」
「――くそォッ!! 千載一遇の
「――まだ動けるヤツがいるのかよォ。しぶてェなァ」
半壊した屋敷の屋根に降り立った
「――いい加減にしろってんだァッ!!」
そして、叫ぶように言い放つと、半壊した屋敷がゆれ始める。
「――あいつ、今度は屋敷の残骸や瓦礫を――」
口に出して判断したタケルは、右と背後の順で顧みると、
「――オレが
そう叫び残して駆け出す。
「――タケルっ!」
「――無理ニャッ!」
「……くっ……」
二人の女子と同等の扱いを受けた
半壊状態だった平崎院
地上を駆け回るヤマトタケルへの投擲材料としてムダなく使われた、それは結果であった。
緑川
休む間も与えず、次々と。
激突の衝撃で地面が揺れ動き、破片が飛び散り、土煙が舞い上がる。
その間隙を縫うように、ヤマトタケルは回避し続ける。
立て続けに飛来する屋敷の残骸を、紙一重の差で。
しかし、回避しきれなかった残骸のひとつが、タケルに直撃する。
――が、それは
――とは、とても言い切れなかった。
本体も次々と降り注がれる残骸の豪雨に身をさらしている以上、その余波によるダメージは、到底まぬがれえないのだから。
自ら望んだこととはいえ。
直撃を受けた
「……ダメニャ。このままじゃ、
なんとか安全圏まで退避した
一方的な防戦を強いられているタケルの姿を遠方から眺めて。
彼らに合流していた
(……アタシの精神が万全なら……)
(……こうなったら、アタシが渡したエスパーダに、望みをかけるしかないわ。
そして、祈るように目を閉じる。ヤマトタケルこと小野寺
「――ねェ、氣功術で何とかならないの? 氣功波や氣弾のようなものなら、ビーム撹乱幕や
「――そんな飛び道具みたいなもの、氣功術にはニャいニャ」
「……そんなァ……」
それを聞いた
そんな時であった。
ギリギリの間合いを保っていた
タケルの分身ではない。
本体が、である。
分身の方は本体との距離が詰まったと同時に、投擲された残骸に押しつぶされていたので、見間違いようがなかった。
それを
「――もらったァッ!!」
そして、勝利を確信した咆哮を放つと、自分の
これまで幾度もそれを試みていたのだが、相手がなかなかその間合いに入らないので、仕方なく手近にある残骸の収集と投擲で射程外の相手に対応していた。しかし、その均衡がついに破れた以上、その必要はなくなった。そして、一度捕まえたら、それで
――の視界が突如真っ白になったのは、まさにその瞬間であった。
「――なっ?!」
なにが起きたのかわからず、
「――惜しいっ!」
その瞬間を目撃した
「――ちっ、小賢しいマネを――」
十階建てのビルの高さまで上昇した
「――だが、これで二度と通用しなくなったぜェ。さァ、今度はどうする? 千載一遇の
そして、それ越しに、視力が回復した両眼で、自分を見上げているタケルを見下ろして問いかける。
「…………………………」
タケルはそれに応じす、口を閉ざしたまま思考を巡らす。これで
(……
以前、連続記憶操作事件ではコンビを組み、
――と、
(――そう言えば、渡されていたな。
その事も、ついでのように思い出す。しかし、なんのために渡されたのか、渡した本人の意識と声が、あの時は不明瞭だったので、とりあえず左耳に装着したままの状態で放置していた。しかし、ついに万策が尽き、絶望の諦観が脳裏と胸中を占めつつあるこの状況と心理状態では如何ともしがたく、また、せっかく訪れた
すると、
(――これは――?!)
その内容に驚くと同時に、
(――よしっ! これなら――)
タケルの脳裏と胸中から絶望の諦観が消え失せ、代わりに希望の光が
そしてそれは顔色にも現れた。
「――なんだよ。まだ
顔色が変わったタケルのそれを見て、
タケルが打ち放った
むろん、有効射程外の上に、ビーム撹乱幕の前では、力なく四散する運命に終わったが、相手に自分の意思を伝えるには充分な行為であった。
「――そうかい。だったお望み通り
叫びを放った
それに対して、タケルは地面を蹴って小刻みに回避し続けるが、どれもとてもきわどく、いつ直撃を受けてもおかしくなかった。
「――ニャにをやってるニャ。自分から挑発しておいて」
「――どうして
と、疑問を呈した
(……あと少し、もう少し……)
タケルは内心で
表情も苦悶に喘いでいるが、目は死んでなかった。
――が、ついに訪れてしまった。
タケルの脚がもつれ、その場に倒れかける。
「――もらったっ!」
それを目撃した
「――よしっ! 間に合ったっ!」
かろうじで転倒をまぬがれたタケルも、
そして、
……ことなく、そのまま地面に落下する。
空中に浮遊している
「ぐはっ!」
地面に叩きつけられた
「……と、どうしたのかしら? 突然、攻撃を止めて着地……というより、墜落するなんて……」
一同とともに遠望していた
(――どうやら役に立ったみたいね。アタシが託したエスパーダが――)
その疑問に唯一答えられる
あの時、タケルこと
すなわち、
これは、元々テレハック自体が違法行為なため、使用にはおのずと
「……ふぅ~っ、なんとか無力化に成功したぜェ。ギリギリもいいところだったけど……」
ゆっくりと立ち上がったタケルは、大きく吸った息を、長々と吐き出す。むろん、これは安堵のため息である。
「……
恐らく、当の本人もこの事態まで想定して|託したわけではなかったのだろう。せいぜい、氣功術と戦闘のギアプに依存した相手に有効な程度の認識だったに違いない。だが、実際は有効どころか、決定打となった。
「……な、なんだ、いったいっ?! なにが、どうして、
その頃、なんとか上体を起こした
「……と、とにかく、逃げないと……」
ようやく
――いたが、
「――待ちやがれェッ!!」
怒りと憎しみに満ちた、だが聞き覚えのある制止の声に、その甘い思惑は素粒子レベルで粉砕された。
癖のあるショートカットに、男勝りな顔つきをしたその女子は、
全身、血と土と砂に汚れ切っているが、両眼だけは綺麗に輝いていた。
獲物を見つけた狩猟者さながらに。
そして、早歩きよりも速い足取りで、横たわっている
メッタ打ちにされたダメージを感じさせない歩調であった。
「~~よくもやってくれたなァ~~」
舞い上がった土煙が落ち着く中、
それは、噴火寸前のマグマに等しかった。
「――ひっ!」
その迫力に、
――寸前、横合いから伸びて来た第三者の手が、それを阻止する。
「――なにをするっ!!」
掴み止められた
ヤマトタケル
「――それはこっちのセリフだ。そっちこそなにをしようとしている」
タケルは非友好的な目つきと口調で
「――そんなの決まってんだろっ! 報復だよっ! 報復っ! オレがやられた分を
(――だろうな。やっぱり――)
と、内心でつぶやくタケルに、
「――だからその手を離せっ! 邪魔をするなァッ!!」
「――いいや、邪魔をする。いや、邪魔させてもらおうか。真っ向から」
『なっ?!』
予想だにせぬタケルの返答に、
「――なぜだっ!? なぜ庇うっ!? そんな義理など、誰よりもないはずのお前が、なぜっ!?」
「――強者が振るう暴力は、たとえ誰だろうと、誰に対しても決して許さない――と、
『!!』
「――なので、例外も許さない。庇ったり守ったりする対象を、自身の好悪や価値観で選ぶなんて、論外中の論外。海音寺。オレは違うんだよ。性別でその対象を選ぶお前とは」
強烈な皮肉を込めた痛烈な批判に、
「――それよりも、負傷者の救護に当たれよ。
駆けつけて来た
「――むろん、救護でも性別は選ぶなよ。命はみな平等なんだから」
皮肉の
「~~うるせェッ!!」
だが、
「――だからなんだってんだよォッ!! てめェの手前なんざ、オレの知ったこっちゃねェッ!!
「――それを言うなら、こっちだってお前の気なんざ知ったこっちゃねェよ」
それに対して、タケルは冷静沈着の見本みたいな表情と受け答えであしらう。
「~~いいからどけェッ!! どけってんだァッ!!」
怒りと憎悪で完全に我を忘れ、怒鳴り続ける
「……お前さァ、そんなに
「当然だろうがァッ!! あそこまで徹底的にやられたんだァッ!! それも、公衆の面前でェッ!! このまま引き下がれるかァッ!! この醜態を晴らさない限りィッ!!」
「――それじゃ、
「ああっ、そうだともォッ!! 真逆もいいところだァッ!!」
「――なら、あいつらもそういうことになるな」
そう言って動かしたタケルの視線に、
瓦礫と残骸で埋め尽くされた地面がどこまでも続いていた。
緑川
一周目時代の日本によく上陸した台風ですら、ここまでの惨状はもたらさなかった。
その上を、警察や救急隊が、慌ただしく動いたり、大声を上げたりしている。
瓦礫や残骸になかば埋もれている負傷者を救出すべく。
救助者の中には、
だが、タケルが目で指したのは、この四人の男女ではなかった。
いま
「――小野寺と浜崎寺がどうしたってんだっ!?」
「――あの二人が救助しようとしているヤツらをよく見な」
――が……
「……だれだよ、そいつら?」
それでも、
「――平崎院の取り巻きの一人と、お前と闘った佐味寺三兄弟の一人だよ」
具体的な固有名詞は用いなかったが、それがかえって通じたようである。
「――あいつらか」
「――ちょっと待てっ!? あの二人が救助しようとしているのは、普段、学校で自分たちをイジメているイジメっ子どもじゃねェかっ?!」
(――やっと気づいたか……)
と、言いたげな表情で、タケルは
ありえないと叫びたげな、その
「……なんでだよ。なんでお前らはそいつらを助けるんだよォッ!? そんな義理、
「――基本、多数派だよな。当然を指す事象というのは」
「――っ!!」
「――三対一なんだけど、それでも当然と言えるのか。『一』の方の海音寺」
正確を期すれば『二対一』なのだが、ここは説得力を持たせるために、あえて『小野寺
「~~~~~~~~っ!」
タケルの背後に控えている――
「――お前はどうなんだっ! お前もタケル《そいつ》と同様、そこにいる
――龍堂寺
「……………………」
突然、
「……たしかに、憎くないと言えばウソになるで。こないなことしおおって置きながら、それは無理な話や。せやけど、だからと
「――っ!?」
「――せやから、おまいの行為は一警察官として容認することはでけへん。全力をもってこいつを守る。もし強行するなら、暴行罪としておのれを逮捕する。たとえそれが正当な理由での報復やとしてもな。こいつは器物損壊と傷害の現行犯として
最後のセリフは、タケルこと
「――これで四対一になったな」
「~~~~~~~~っ!」
「――で、まだ続けるか?」
「~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」
「――よしなさい、海音寺。悔しいけど、二人の言う通りだわ……」
そして、実際に現れた平崎院
「~~オレは、オレはァ……」
その様子を見て、タケルと
「――これでも、お前は弱肉強食を信奉し続けるのか。強者の自制と弱者の救済を否定するのか。力こそすべてとして。退化した
「――すまへんな。警察の力がおまいまで及ばへんかったばかりに、こないな罪を犯させてもうて。これからは、警察の力が世の中のすみずみまで行き届くよう、今まで以上に努力するさかい、今回はおとなしゅうお縄について、罪を償ってや。お願いやから」
「……………………」
「……うっ、うう、ううっ……」
そして、嗚咽を漏らしながらその場に崩れ落ち、両手と両膝をつく。瓦礫と残骸に埋め尽くされたその地面に、無色透明の雫がこぼれ落ちる。とめどなく、次々と。
もはや、緑川
「――見事な演説と説得だったぜ、龍堂寺」
勇吾ことタケルは率直な賞賛を相手に送る。
「――ふん。当然やろ。そないなこと」
「――それよりも、おまいには訊きたいことが山ほどあるんや。公私ともども。せっかくの機会や。
そこまで言ってタケルに詰め寄ったその時――
パチパチパチパチ……。
原型を留めてない平崎院
それも、一人分だけの。
「――おまいは――」
その人物の容姿を見て、
「――ようやく姿を現したか。今回の黒幕――」
タケルこと
「――貝塚
に、対して。
「――見事な討論だったよ、二人とも。緑川くんとの闘いぶりに劣らず」
貝塚は惜しみない賞賛を、タケルに続いて、
「――どうせ特等席で観戦や傍聴をしてたんだろ。
「――貝塚
タケルは冷淡に、
「――正直、これほどの戦闘が繰り広げられるとは思わなかったよ。おかげで、貴重な戦闘データが取れて、感謝に堪えない」
相手はそれに取り合わず、勝手に礼を述べる。
「――それが目的か。戦闘に使える様々なギアプやマインドウイルスを、力が欲しい連中に提供したのは」
タケルが確認の問いを発した声に熱が帯び始める。
「――ま、そんなところだ」
貝塚は肩をすくめて答える。悪びれもなく。
「――なぜやっ!? なんのためにそないなことをするっ!」
その態度に立腹した
「――戦闘系ギアプの開発のためね、きっと」
それに答えたのは、中学からの馴染である
「――
「――たしかに、言われて見ればそうだな。振り返って見ると。なにぶん、趣味で始めたことだからね。あまり意識してないんだよ」
「――それが高じて、気がついたらいつの間にかこうなっていた――というわけか。どうりで、罪の意識もあまりないわけだ」
貝塚のセリフを皮肉っぽく先取りしたタケルの声がさらに加熱される。嫌悪という熱に当てられて。
「――せやからと
それは
「――それは困る。刑務所では、せっかく持ち始めた趣味に没頭できなくなる。なにぶん、飽きっぽい性格をしていると、よく言われるのでね」
「――なら好都合や。釈放後の再犯の心配がのうて」
確保した
――よりも早く――
「――てめェかァッ!!」
「――よくもっ! よくもォッ!!」
錬氣功で筋力が増強されたその
貝塚の頭部は砕け散った。
血と
だが、その色は青白一色であった。
赤や無色透明ではなく。
「――なっ?!」
思わぬ事態に、殴打した張本人は驚愕と動揺を示すが、それはそれ以外の一同も同様であった。ただし、彼らの場合、それに加えて、
頭部を失った貝塚の身体は、青白色の粒子をまき散らしながら倒れ込むと、そのまま雲散霧消した。
跡形も残さず、綺麗に……。
「……こ、これは……」
一連の現象に、
「……
絞り出すようにつぶやいたのは、同じ使い手たるタケルこと
(――なにも君の専売特許ではないよ。この能力は――)
それも、テレハックによる――
「――どこやァッ! 出て来いィッ! 隠れてとらんでェッ!」
(――いや、ここは隠れ続けさせてもらおうか。もし出て来たら、逮捕されてしまうからね。それは困ると、先刻も言ったはずだよ――)
「――おい、保坂。管理局に連絡して発信元を逆探知しろっ! そして、動ける
「……逃げられたか……」
タケルはその場に立ち尽くしたままつぶやく。
「……あいつ、凄腕のテレハッカーよ……」
そこへ、そばに来た
「……複数以上の相手を同時に、それも迅速かつ易々とマインドセキュリティを突破してテレハックするなんて、アタシですら無理だわ……」
「……………………」
「……もしかしたら、あいつもアンタと同じく……」
「……………………」
タケルこと
自分たちの前に貝塚がふたたび姿を見せるいう予感が。
止まらない。
止められない。
そして何よりも、止められずにはいられない。
それは、不吉と凶兆で黒く塗りつぶされた、イヤな予感でしかなかったのだから……。
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