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 ハンモックで眠ったのは初めてだったけど、なかなか寝心地がよかったです。

 ダニエルお兄ちゃんの家にはベッドが一つしかないから、最初はダニエルお兄ちゃんがハンモックで寝るって言ったんだけど、ぼくはハンモックで寝てみたかったから、代わってもらいました。

 知らない場所で眠れるか心配だったけど――ぼくの耳や鼻はとっても良いので、そればかりが気になるんじゃないかと思ったんです――自分の匂いがあんまりしないのがちょっと心許ないくらいで、音は寧ろ家より静かでした。ダニエルお兄ちゃんはぼくより寝坊助で、ぼくが起こしたくらいだったからです。家なら、もっと早い時間からママが起き出しています。


 ダニエルお兄ちゃんが、包帯の交換をするために包帯をとったら、昨日の傷はもうなくなっていました。ぼくはびっくりして「すごい薬だね」って言ったんだけど、でもそれは違うことに気付きました。ダニエルお兄ちゃんは「そうだろ」って言ったけど、でもたしかに一瞬驚いた顔をしていたからです。

 遅い朝ごはんはトーストに目玉焼きとベーコンを乗っけたものでした。ダニエルお兄ちゃんは「たくさん食えよ」と言って、ぼくの頭をわしゃわしゃしてくれたので、少しくすぐったいって気持ちになりました。


 それから少しして、お昼にダニエルお兄ちゃんといっしょに家に帰りました。

 でも、帰ってる途中でいつもと様子が違うのに気付きました。なんだか、家の方が騒がしいんです。ぼくがダニエルお兄ちゃんを見上げたら、ダニエルお兄ちゃんはなんか悪戯っ子みたいに笑って「さて、なんだろうな?」って。


 家の扉を開けたら、アリアがぼくに飛びついてきました。「ルーフ、おかえり!」って、頭に花輪を被せられました。

 よく分からない内に手を引かれてダイニングへ行ったら、ぼくの好きな料理(例えば鳥肉のフライとか、オムレツ、それからリンゴです)が並んでました。壁にはママの誕生日の時にもあった、特別な日の飾りもあるし、それに机に『ルーフありがとう』って書いた紙が置いてあります。

 アリアは得意げに言いました。ぼくに元気になって欲しくて、ママと一緒に『ルーフにありがとうをする会』を開くことにしたんだって。ぼくは耳がいいから、家に居たらきっと準備してるのがバレてしまうから、ダニエルお兄ちゃんに協力してもらったんだって。

 ダニエルお兄ちゃんは「家族水入らずでやってきな」というと、帰ってしまいました。


 アリアもママも、ぼくのことを前と変わらずに思ってるんだな、って思ったら、なんだか胸の奥がぽかぽかしてきました。よく分からないけれど泣いてしまいそうになって、でもせっかく嬉しいんだから、それを伝えなくちゃと思って、ぼくは笑いました。

 とっても、嬉しかったから、笑おうと思ったら自然と笑えました。

 「私たちはいつでもあなたの味方よ」とママは言いました。アリアが「私も!」と言いました。なんだか、久しぶりな気持ちでした。ただただ楽しかったんです。

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フェンリス狼少年記 聖華 @hiziribana

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