24ページ目
ぼくは、まだ人間みたいです。
瓦礫の撤去の時に、廃材の鉄の部分の端っこが引っかかって、掌の肉がぱっくり二つに割れてしまいました。血がいっぱい出ました。
見た途端に痛くなって、「あっ」って小さく悲鳴をあげたら、マリオさんが怪我に気付いて、周りのみんなに急いで救急箱を持ってくるように言いました。とっても痛かったけど、でもこれくらいじゃぼくは死なないのは分かってたから、周りのみんなが慌てているのが、なんだかおかしく見えました。
応急手当に左手を包帯でぐるぐるにされると、ちゃんとした手当てをしてもらえるように教会に行くように言われました。教会は病院といっしょです、ミリガン神父は薬なんかにも詳しいからです。
でも、ミリガン神父がぼくに薬をくれたりするとは思えません。だから、取り敢えず今日の手伝いはやめて、家に帰ることにしました。
帰り道の途中でダニエルお兄ちゃんに会いました。
ダニエルお兄ちゃんは、やっぱり一番初めに手のことを聞いて、ぼくの話を聞くと「俺の家に来な、手当てしてやるから」と言ってくれました。「それで帰ったら、リリスさんとアリアが心配するだろう」って。ダニエルお兄ちゃんは、きっとぼくがミリガン神父のところに行けないのを知ってたんだと思います。
ダニエルお兄ちゃんの家は、住宅区からちょっと外れた、見張り台に結構近い場所にあります。ダニエルお兄ちゃんはぼくの包帯を取ると、水で改めて傷口を洗って、薬を塗って、新しいガーゼと包帯を巻いてくれました。
「痛いけど、ガマンしろよ」とか言ってくれたのが、嬉しかったです。ダニエルお兄ちゃんには、ぼくがきちんと子どもに見えているんだ。
ぼくが「どうして薬とかいろいろあるの」と聞いたら、旅をするのに必要な道具だから、いつでも使えるようにちゃんと管理してるんだって教えてくれました。そこでぼくは初めて知ったんだけど、ダニエルお兄ちゃんは元々旅人で、この数年ここに居るだけなんだって。ぼくはびっくりしてしまいました。船に乗って、違う国に行ったこともあるって言ってた。
ダニエルお兄ちゃんは、いろんなことを話してくれました。いつも付けてる首飾りは、東の国ではマガタマと呼ばれているものだとか、隣の国の騎士と仲良くなった時に交換した短剣もあるとか、地図を開いて青い川や緑の森をなぞって自分が今までにした冒険を追いかけたり。とっても、楽しかったです。
「どうしてぼくにこんなに良くしてくれるの」ってぼくは言いました。別にダニエルお兄ちゃんを疑いたかった訳じゃなくて、不思議だったんです。だって、考えてみたら、ダニエルお兄ちゃんは最初の最初、ぼくを集会に呼びに来た時から、ぼくのことを怖がっていなかったんです。
ダニエルお兄ちゃんは、真剣な顔になって「お前に話しておきたいことがある」と言いました。これを聞いたら考え事をしないといけなくなるだろうから、今日はダニエルお兄ちゃんの家に泊まった方がいいとも言ってました。ぼくは、頷きました。
お茶をぼくの前に出して、ダニエルお兄ちゃんは言いました。
「俺は、お前みたいに、人間以外になれる人間に会ったことがある」って。
ダニエルお兄ちゃんがぼくと同じくらいの頃、お父さんといっしょに旅をしていた時に乗った船で、船員として使われてたんだって。「本当に使われてるって感じだった、奴隷よりも道具に近かった」って、とっても悲しそうな顔で言ったので、ぼくまで悲しくなってくるようでした。
その子はぼくと違って特別力が強い訳ではなかったので、余計にひどい扱いになってたんだろうってダニエルお兄ちゃんは言いました。「その子はどうなったの」ってぼくが聞くと「家族が死んで、心を壊してしまって、それからは知らない」って。
そうしてダニエルお兄ちゃんは言うんです、ぼくがその子と同じ目に遭いそうで心配だって。
ぼくの知らないところで、大人たちは話し合ってぼくのことを、首都に報告したみたいです。あと数日もすれば、ぼくを研究施設に引き取りにくるって。アリアやママと離ればなれになるのは嫌です。
「どうしたらいいの」って聞いたら「何もするな」って言われてしまいました。国を敵に回したら、それこそどうしようもない。
「それにこれはチャンスだ」
ダニエルお兄ちゃんはぼくの目を見て、そんなことを言いました。「国からなんらかの認定を受ければ、神父や村長も何も言えない。グレイみたいに、お前のことを好意的に受け入れてる人だって同じくらい居るからな。この村でのお前の居場所を確立させられるかもしれない」って。
ぼくは、たしかに前より頭がよくなりました。でも、そんなこと急に言われたって、分かるようで分からないです。
ダニエルお兄ちゃんは、これかれの時間は気持ちと頭を整理する時間にするといいと言いました。何か質問があったら答えるとも言ったので、ぼくは早速一つ質問をしました。「船であった子のこと、今はどう思ってるの」って。
謝りたい、という答えが返ってきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます