23ページ目
約束した通り、今日は午後からお手伝いに行きました。柵の補強工事がひと段落したので、牧場の修復作業です。
今日はアリアはいません。やることがあるんだって。
壊れた建物の瓦礫を運んでいる途中で、ジャンに会いました。
ジャンはぼくに気づくと(ぼくはもっと前から気づいていたけど、作業をしていたので気にしないでおくことにしたんです)何か迷ってるようだったけれど、でも話しかけてきました。
「あの時は悪かった」って。ぼくはびっくりしました。あのジャンがぼくに謝ってくるだなんて!
ジャンはこの前は言い過ぎたと思ってる、と言いました。でも、「助けてくれなかったって気持ちはなくなってない」って。どうして今更謝りにきたんか聞いたら、だんまりでした。
ぼくは、ジャンが本当に心から謝っているとは思えませんでした。もしかしたら、家族が死んだことで、心境になにか変化があったかもしれません。でも、それよりもきっとこの前ぼくがやり返したから、仕返しが怖いんだろうと思う気持ちが強かったんです。
だから、ぼくはジャンに言いました。「自分が今までやってきたことが悪いことだって分かってたから、あんなこと言ったんじゃないの(オレがお前をからかってたから、オレの家族を助けなかったんだろう、というアレです)。だったら、最初からみんなが嫌がるようなことやらなければよかったんだ」って。
ジャンは、下を向いてぎゅっと拳を握っていました。だから、ぼくは「今のぼくは怖いから、殴れないんでしょ」って。
なんだか、言葉が勝手に出ました。まるで前の仕返しみたい。
「そんなに家族を守りたかったっていうなら、ジャンがぼくの代わりに化け物になればよかったんだ」
その時初めて、ジャンはぼくを、恐ろしいものを見るような眼で見ました。ぼくはそれ以上何も言わないで、手伝いに戻りました。
嫌なことをされたからって、やり返すのはよくないって知ってます。ジャンの家族は死んじゃって、ぼくの家族は生きてるから、ジャンは可哀想だっていうのも分かってます。でも、自分が不幸せだって感じでぼくの前に来たのが悪いんだ。
人の苦労も知らないで、ジャンなんかただ周りがちょっと死んだだけで、自分はなんてことないのに。ずるいです。ぼくだって、人間のままでいたかったんだ。もちろん、正しく言えばぼくはまだ人間だけど、オオカミが混ざっちゃってるから、純粋な人間じゃありません。そういうことです。
今日はお腹が空かないまま寝ました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます