..

――――「無色の丘」で、灰色の女が笑う。


「ああ、よかった。よかった。もう、あの子が泣くことはない」


 はらはらと涙をこぼしながら、女は心底安堵したといった体で笑う。よかった、よかった。ただそれだけしか知らない子供のように、繰り返し繰り返し呟いて。


「もう、大丈夫よね。貴方はもう、寂しくないよね」


 女は笑う。幸せで仕方がないと、そう言いたげに。目を細めて泣きながら、それでも。

 少し、誰も知らないおとぎ話をしよう。

 昔そこには魔女がいた。彼女はひどく優秀で、彼女にできないことはないと言われるほどだった。

 彼女には愛する人がいた。けれど彼は、悲しいほど生きていくには適していなかった。魔女はそれが切なくてやりきれなくて。だから、彼女は彼を救うことにした。

 いく度の失敗の末に、彼女はひとつの願望器を作ることに成功する。そして、彼女は願った。


「ごめんなさい」


 彼女は、失敗した。

 愛する少年は願望器に溶けて、無限の孤独を押し付けられて。魔女は反動によりその命を失い、最期の機転で何とか魂をとどめたものの、愛しい人に視認されることはなく。ひたすら、孤独にむせぶ少年を抱きしめ続けた。


「何もできなかった私だけど。貴方を苦しめるしかできなかった私だけど。最後に、本当の最後に、貴方のために、少しでも役に立ったかな?」


 誰もいない、何もない。ただそこにあるだけの夢幻の聖地で、光にほどけつつある女は、一粒の真珠を弾けさせ、笑った。


「さようなら、こんどこそ幸せに。


――――愛してるわ、**」

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かおなし男とかおだけ少女 @mas10

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