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青年がいた。顔面をラクガキの様な黒い線に覆われている青年だった。それから唯一のぞく穏やかな片目は、ただ愛情を抱いて前を見ていた。
少女がいた。長い長い泥の黒髪を、どこか艶やかに輝かせながら、美しく笑う頭部だけの存在だった。その瞳にはいつも、愛と喜びが満ちていた。
二人の傍らには、いつも一羽の蝶がいた。かつて「無色の丘」と呼ばれ、「無色」の概念を背負わされた彼は、今「幸せ」を象徴するように極彩色の翅を光に煌めかせ舞っている。
「失せもの《ルゥズ》」と名付けられた青年は、それでも己の最愛だけは決して失うことなく。
「
己の願いを差し置いて他人の願いを優先させられた少年は、もう咽び泣くこともなく。
ただ、思うことは一つだけ。
――嗚呼、かくも
かくも幸せが近くにあったなんて!
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