第6話 恋人
男性と行為を終えると、その日の晩の男性は珍しく私を抱き締めながら私と話をしました。
「きみは、いつまでこんなことを続けるつもりなんだい」
「わかりません」
「はあ。父親は何をしている人なんだ」
「父はいません」
「死んだのか」
「いえ、それは……」
私は口ごもってしまいました。父のことを何も知らなかったのです。気立てのよい母のおかげで、父が不在であることを何とも思いませんでした。母は私の父について一度も語ったことがありません。母の愛に溺れて目が暗んでいましたが、よく考えれば不自然でした。その晩の男性に父親を探しているので協力してほしいと伝えました。彼は私の哀れな育ちを同情してくれたのでしょう、そっと抱き締めて金銭を手渡してくれました。彼とはそれ以来、恋人となったのですがそう思っているのは彼だけで、私は変わらず多くの男性と寝ました。
私は、自分の父を探すことに集中しました。もちろん、母には相談しません。母が男性を過剰に怖れていること、私に父親の話を一度もしないことから母に父親探しをしているとは言うべきではないと判断しました。これは正しい判断でした。勤務先を超えて多くの男性と身体を重ねた私ですから、人脈だけは人一倍に持っていました。私と母の名前や特徴を伝えて、私のことを知っている人はいないか探しました。こんな場所ですから、親がいない子どもは大勢います。探すだけ無駄だと仰る方もいましたが、私は諦めませんでした。どんな危険なことも引き受けて情報を得ようと奮闘しました。その頃の私は、以前に比べて疲労困憊を極めており、母と夕食を共にするたびに母は私に声をかけるので、どうしても叶えたい夢があるのだとだけ伝えました。母は大人になり、一人立ちしていく私の姿に感動したようで、深追いせずに応援してくれました。母が私に向ける眼差しは、変わらず愛に溢れておりました。麗らかな春の日差しのような母の愛を無邪気な子どものように私は与えられ、再び父を探す元気を得るのです。
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