第4話 家庭訪問

 中学校に上がった私は、担任の男性教師に一目惚れしてしまいます。今思えば何の特徴もない中肉中背のつまらない男性だったと思いますが、13 歳の私には大人の魅力溢れる頼れる男性に見えたのでした。とはいえ先生と生徒という関係ですから、先生に気に入られるように勉強に精を出し、積極的にクラスの活動に参加する程度で私から何かをするということはありませんでした。母は私が試験で良い結果を出すたびに我がことのように喜んでくれました。本当は母や将来のためではなく先生のために勉強しているのですが母には言いませんでした。騙していたとは思いません。ただ、母が勘違いして喜ぶ姿はとても愛おしく思いました。

 ある日、家庭訪問がありました。母は私がお世話になっている先生だからと、部屋を片付けたりいつもより良いお茶を用意したりしましたが、先生が来る約束の時間が近付くたびに母が緊張していることに気づきました。唇が青く震えています。

 「お母さん大丈夫?体調悪い?」

 「いいえ、大丈夫よ。大丈夫だから……」

 母は明らかに無理をしているようでした。私は病気ではないか、今日は先生に帰ってもらうように言った方がよいのではないかと母を説得するのですが、母は笑顔でその提案を退けました。玄関の戸を叩く音がしました。先生です。母は大きく深呼吸をしてから先生を部屋へ招き入れました。家庭訪問は 15 分程度で終りました。自宅で出会う先生はいつもと違うように見えて、恋心がときめきました。しかし、それは場所が変わったことの錯覚ではなかったようです。先生の私の母を見つめる瞳は教室で生徒を相手にするときと違い、鋭く贅沢な獲物を見つけたときの獣のようでした。「教師」という仮面の上からでも伝わるその眼差しは、決して私には向けられないものだと察しました。先生が帰り際、私にしか聞こえない大きさで「お前の母は綺麗だな」と言ったのが今でも耳にこびりついています。男性の欲に触れた(しかしそれは私には向けられていなかった)初めての体験でした。

 先生が帰った後、母は過呼吸を起こして夜の仕事を休んでしまいました。私は母の手を握り、母の様態が落ち着くまで一緒にいました。その間、母は同じことを繰り返しました。「男性には近付いてはいけないよ、男性は恐ろしい生き物なんだからね」と。私はこのとき、母が男性を苦手に思っていることを知りました。だから、小学生のときに私が男の子に告白されたことを激怒したのです。母の髪の毛をキスしながら悪い欲求がむらむらと湧き上がり、私は言いました。

 「私、あの先生のことが好きなんだ。恋してるの」

 すると、母はベッドから飛びあがり、私の頬を平手で打ちました。あの優しくて女神のような母が、愛を伝えるためにあるその手で私を打ったのです。

 「気持ち悪い!! 恥を知りなさい!」

 ヒステリックになった母の手は再び私の頬を叩き、力尽きたように気絶しました。

 母は怒っているのではなく、怖れているのです。病的なまでの恐怖心は私への愛でもあった。私は狂う母の表情と母に打たれた痛みのために、じゅくじゅくと下半身が潤い、淫らな気持ちになっていました。私は母が気絶している隣で、秘かに下腹部に手を伸ばし、果てました。母が私のために傷つき、恐れ、悲しむことにどうしようもなく興奮してしまうのです。母がもし今目を覚ましたらどんな顔をするだろうか、私がもし先生と肉体関係を結んだらどんな顔をするだろうか。私の指がふやけるほどに自らを慰めました。

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