私が企画で入賞作品をコレと決める際には、それぞれの作品を比較して「コレがいいかな、それともコッチがいいかな」と悩んだりはしないものです。歯に衣着せず本音を言ってしまえば「他と比べられている時点で」それが「抜きん出てはいない」ことが明らかだと知っていますから。そう、優れた作品は読み終わった瞬間に「うん、これだ間違いないぞ」と確信させてくれるものなのです。
ではなぜ確信に至ったのか?
ネタバレなしで、この作品の良さを伝えるのは難しいのですが。
文章が上手いだけでなく構成に工夫がなされていました。
それも徹頭徹尾、導入部分から最後のオチに至るまで一切スキや甘えがなかったのです。作品の紹介文にまで叙述トリックが仕掛けられている抜け目のなさときたら脱帽ものです。ベテラン作家が描く「ある種の作品」は自分の文章が上手いというだけで満足してしまい、単なる技術自慢でしかないものを読ませて称賛を強要したりするものです。芸とは本来そういうものではございませぬ。
ここにそういった驕りは一切ありません。技術などあって当たり前、それを駆使して更にお客様を楽しませた者こそが称賛を浴びるのに相応しいのではないでしょうか?
職人気質の良き仕事です。日本の伝統文化を題材とするに相応しい名作だと感じました。