第32話

「待ってください!そんなのあんまりだわ」

「うるさいっ!全部、もう何もかも終わりなんだ」

「ベティは?私はどうなるの?あなたは私たちを見捨てるの?」

「お前たち厄病神は元は平民だろ。なら、私と違って生きていけるだろう」

「そんな」

「こいつを追い出してくれ」

「あなたっ!」

複数の使用人に羽交い絞めにされ、アンドレは邸の外に放り出された。

「使用人風情が気安く触るな」といくら怒鳴っても、いつもならびくびく怯え、命令に従う使用人たちだが、今日は違った。無遠慮な力でアンドレアを捉え、何の躊躇いもなく邸の外に放り出した。そこに普段から溜まっていた使用人の鬱憤が知れる。

邸の外に身一つで放り出されたアンドレア。彼女が公爵家のお金で買ったドレスや装飾品は全て、公爵家の今後を考えて貴重品として管理される(いざとなったら売って食つなぐ為に)。

それぐらい現在、公爵家が直面している未来は真っ暗なのだ。

邸で一人になったマウロはソファーに深く腰掛け、ため息をつく。テーブルの上には使用人たちの辞職届が置かれていた。今残っているのは僅か数名。その使用人たちも今週中には公爵家を去る予定だ。


◇◇◇


「いやぁ゛っ。やめ゛でぇ」

かび臭い地下に女の物とは思えないだみ声と何かが激しく当たる音が響いた。

「あ゛あ゛あ゛っ!おねがいぃっ!」

「無様だね」

両手を鎖で繋がれ、足を宙に浮かせた状態のアンドレア。着ていたドレスはズタズタに裂け、白磁のような肌だった背中や胸に容赦なく鞭が振るわれる。

肉が裂け、地面には彼女が流した血がしたたり落ちている。彼女を鞭で振るっているのは顔の潰れた不細工な男。彼は嘗て、罪を犯し、処刑されるところをカーティスに拾われ、エストレア王族の専用拷問師として働いている。

カーティスは泣き叫ぶアンドレアに冷たい視線を向ける。アンドレアは目から涙、鼻から鼻水、口から涎を垂れ流した姿で爽やかな笑みを浮かべながら自分を見つめるカーティスに視線を向ける。

「おね゛がぢ。うわあ。やめだせでぇ。いだいのぉ」

「ダメだよ」

にっこりと何も知らない令嬢が見たら惚れてしまいそうな笑顔でカーティスはアンドレアを絶望の淵に叩き落とす。

「だって、君は止めなかったじゃない。私のダリアが今の君の様に懇願しても、君は止めなかったでしょう」

「ごんなに、いだいなんて、じらなかった」

「そう。知れて良かったね。馬鹿は死なないと治らないというけど、君は死ぬ前に利口になれて良かったね。君がダリアにしていたのは躾だったんだろう。君が厳しく育ててくれたおかげであの子はとても立派な、素敵な淑女になれた。礼を言うよ。ありがとう。だから、恩返しをしないといけないね」

「え゛っ」

「私が君をダリアのような立派な淑女になれるように躾けてあげるよ。ジョニー」

「はい。殿下」

再び、ジョニーと呼ばれた顔の潰れた男はアンドレアに鞭を振るう。アンドレは泣き叫び、何度もカーティスに懇願をする。

「大丈夫だよ、アンドレア。君を殺したりはしないから。壊れるまで君を大事に扱ってあげる。もちろん、君流のやり方でね」

「いやあぁぁぁぁっ!!」

カーティスは背を向け、地下牢を出て行く。それでもアンドレアの躾が終わることはない。

「こんな姿、ダリアには見せられないな」

地下から地上に戻る際、カーティスは深呼吸をして自分を切り替える。ダリアの知っている優しく、頼りになる模範的な王族の姿へと。


◇◇◇


スチュワート公爵家の娘、ベティは公開処刑となり、公爵家の門に一か月間その死体を晒された。スチュワート公爵家は身分剥奪。当主であるマウロはナイフで首を切って死亡。自殺と判断された。

コーディは・・・・。

「王であっても人の親。お前には後を継ぎ、国の為に働いてほしかった。だが、その甘さが悪かった。あの時、切り捨てるべきだったよ」

疲れた顔で王は言い、コーディは辺境の地へ飛ばされた。そこは一年の殆どが雪で覆われ、作物が育たず、人の住める場所ではないと言われている所。そこに住むのは訳アリか犯罪者だけだと言われる場所で一生を幽閉されて過ごすことになる。

ウッドミル王国は度重なる他国の王族への不敬により、信用はがた落ち。エストレアとの関係も悪化し、貿易にただいな影響を受けている。暫くは物資の面で苦難の道が続くだろう。

ウッドミルの王太子には第一王子であるクリスティアンに決定。彼は病弱ではあるが、医師の治療と王妃の賢明な看病のおかげで人並みの生活を送る分には支障がなくなっている。

彼の補佐として王妃の血縁であり、従兄になるクリスフォードと王弟の息子イスファン,コルパッチョがその補佐につくことになった。


そしてダリアとカーティスはそれから一年後に結婚。

三人の息子と一人の娘をもうけ、仲の良い姿は理想の家族として国民に親しまれ、後世にも語り継がれた。

カーティスとダリアの恋愛物語は吟遊詩人が語ったり、小説になったり、舞台でも人気の作品

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まさか!?シンデレラストーリーが現実にあるなんて本気で信じたんですか? 音無砂月 @cocomatunaga

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