カンデンシキ山の老人

悪のユリウス

第1話山の主人

もう街ではすっかり日が暮れて居て、レンガ作りの家々の窓からはポツポツ暖かい光が漏れ出しており、煙突からは夕飯の支度の煙のスジがいくつも立ち上っては空に消えていた。

街の大衆居酒屋では、石工や出稼ぎの坑夫やらでごった返しており、ひっきりなしに食事が、丸い大きな木製のテーブルに配膳された。

街はカンデンシキ山という大きな山のふもとに位置しており、そこから採掘される建築用の石材や石炭などの燃料の経済的恩恵で街は成り立っている。

街の全ての住人はカンデンシキ山という存在に、直接的であれ間接的であれ、単純に毎日視界に入らざる得ない北方に聳え立つ禍々しいシルエットのビジュアルという形であれ、何らかの関わりがあるのである。

ある日の夜のこと、いつものように人でごった返した街の居酒屋では、センセーショナルな話題、世間の狭い田舎者にとっては大好物であるような類いのではあるが、で持ち切りになっていた。


山に住んでる爺さんが今度街に降りてくるらしい。


ーこんな内容であった。


山に住む老人の名をバニパル、と言った。

住む、とは言っても、その山の住居は常に国軍の厳重な監視下にあり、「監禁」といっても何ら差し支え無かった。国軍の詰め所が街とカンデンシキ山の間に設置されており、まるで老人を意識されて建てられたかのようである。

バニパル老人はある罪を犯して山に追われたという噂が以前から囁かれては居たが、その詳しい真相を知るものは誰も居なかった。

バニパル老人は新国王の即位に際して「恩赦」という形で街に開放されるというものらしかった。新国王の恩赦であれ何であれ、「罪」を犯した人間が我が街に野放しなるというのは、住民にとってあまり気分の良い話では無かった。



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カンデンシキ山の老人 悪のユリウス @thedarknessjulius

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