第4話

「……暇ね」

「暇だ……」

誓ったとはいえ、狙っているのがたまたまウーモス星の近くを通った宇宙船なので、空振りを重ねていった。


やることもなく、ひたすら救助を待つだけなのでやることもない。

「最後のコンテナだな……」

アクロは積み上がった空のコンテナを見て悲痛な声を漏らした。

「ホントに来るのかしら……助け……」

「知らんがそういうことを言うな」

缶詰めを噛み締めるようにしながら呟きあう。

受信機がもう一度鳴ることはない、そういう空気が流れていたその時である。


ガガガ、ピ━━━━


「な、なんだ?」

受信機が壊れるようなけたたましい音を出す。

「救助よ! 救助だわ!」

ララの声に合わせるようにつまみを回して調整しようとするが、中々合わない。


ガガガ、ピ━━━━


しかし、何分もやっていると段々向こうから何か聞こえている事が分かった。

「なんだこれ……」

人が話しているのかどうかも分からない。

受信機に顔をつけるようにしてさらに調整を続ける。

「これ、人の声よ!」

言語が違うので、何を話しているのか分からない。

「そこに誰かいるのか?」

アクロは早速送信機を手に取る。

「お願いだから助けて! ここにいるのは二人よ!」

ララがそう言うと、向こう側の声がざわめいたのが分かった。

「ああ! 助けてくれ! もう食糧も尽きそうだ!」

一生懸命叫ぶが、返信らしきものはアクロたちには理解できない。

「くっ、何言ってるのか全然分からねえ……」

「あっ……」

そのうちに、受信機の音は先ほどの雑音に変わり沈黙してしまった。

「………………」

二人は黙りこむ。

「助け、だったのかしら……?」

「ああ、あんなに言ったからな。絶対来る」

二人とも疑い半分、期待半分と言った所である。


しばらくは何も起きなかった。

「何も起きないわね……通り過ぎただけなのかしら……」

そう言い終わるか言い終わらないかといった瞬間である。


天を裂くような轟音と地を裂くような激震が走った。


「な、なんだ!?」

揺れで転んだ二人は顔を見合わせた。

すると、耳をつんざくようなサイレンが鳴り始める。

「何が起きてるの!?」

二人はモニターに駆け寄ると、モニターは赤く点滅していた。

「まずい……今の衝撃で壁に穴が開いたらしい……」

アクロは、白線の塊の所にへこみと亀裂がある所を指差した。

「えっ!? じゃあ、私たちは……」

「……生き埋めというか、溶岩に焼き殺されるらしい」

「嘘……ここまで来たのに……」


モニターの球体は徐々に外からの異物に埋まっていく。

しかし、二人にはどうすることも出来ない。ただ、死を待つだけである。

冷暖房機構が壊れたらしく、冷や汗以外の汗が出始める。

大部屋の外を埋め尽くすと、遂に大部屋のシャッターが悲鳴をあげ始める。

やがて、シャッターが溶け始めその穴から溶岩がゆっくりと漏れてくる。

「こんな所で終わるなんて……」

「おい、何をしている! 生きようって言ったのはお前だろう。早くこっちに来い!」

顔を覆ったララにアクロは積み上げられたコンテナの上に乗り、自分の横を指し示す。


溶岩はゆっくりとしかし着実に進んでくる。

床を埋めつくし、十センチ、二十センチと上がってくる。

やがて、モニターが断末魔を残して爆発する。

その後の静けさが恐ろしかった。

そしてコンテナの一段目を沈没させた。

「うう、暑い……」

軽くサウナ状態になってしまっており、二人は汗がダラダラ出ていた。

二段目も沈没し、残すはアクロたちがいる三段目である。

「く、暑いな……」

「はあはあ……」

二人は、百度もの気温で熱中症になってしまい、折り重なるようにして気を失ってしまった。



「……はっ!」

二人は同時に目を覚ました。

「……ここはベッドの上?」

ララは手のひらに伝わる感触からそう感じた。

「そうらしいな…………助かったのか?」

自分たちの周りに大量に置かれている氷を払いのけて起き上がった。

辺りを見回すとそこはあのシェルターのようにベッドが二つあり飾り気はないベッドルームといった感じである。

すると、扉が開いた。

出てきたのは気の良さそうなお姉さんだった。

起き上がっている二人を見ると、目を丸くしてどこかへ行ってしまった。


しばらくすると、一人の青年を連れてきた。

「ーー、ーーーーー!」

「???」

何か快活そうに話しているが、全く通じない。

二人が怪訝そうな顔をしていると、ポケットからマイクらしきものを取り出して口に当てた。

「あ、あ。よし。……やあ二人とも。オレはこいつの船長、レンだ、よろしくな!」

青年はニカッと笑い、両手を差しのべる。

「……よろしく。アクログート・ロマノフだ」

「ララーシャ・ミハイルよ」

二人は、それぞれ手を握り返した。

「ま、二人ともお疲れだろうからゆっくりしてってよ」

そう言って、レンはそそくさと去っていった。


「良かったわね、あのレンとか言う人、優しそうよ」

ララは安心したように言った。

「ゆっくりしてけ、か……」

アクロは息をついた。

ふと横を見ると、このベッドルームと地下室のベッドルームとの違いを見つけた。

窓があるのだ。

アクロは顔をつけてみた。


「…………」

息をのまずにはいられなかった。

黒い宇宙の背景に、赤黒く染まり恐怖すら感じる星。

教科書で習った緑豊かなウーモス星はどこに行ったのだろうか。

その光景に見いっているアクロの背中から、ララは漏らした。

「ひどいわ……」


宇宙船は進む。奇跡の二人を乗せて。

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ウーモス星の危機 M.A.L.T.E.R @20020920

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