第3話 くっつき子どもと笛吹き男

生まれたときから身体がくっついていた双子の赤ちゃんは、そのまますくすくと成長し、立派なくっつき子どもとなりました。


背中合わせにくっついたくっつき子どもは、どちらもとってもわがままで、先にどちらが一歩を踏み出すのか、けんかばかりしていました。


ある日、二人が道を歩いていると、向こう側から楽しそうな音楽が聞こえてきました。色とりどりの服を着た男の人が、笛を吹きながら子どもたちを集めていたのです。


「さあさかわいいこどもたち、こちらにちょっとおいでなさい。シナモンかかったドーナツと、きれいないろのチョコレート、おさとうがしもいろいろと、たくさんそろっておりますよ」


なんて素敵な歌なのでしょう。口の中まで甘くなった二人は、我先にと飛び出しました。でも、二人はくっつき子どもですから、一緒に急いで動き出したら、身体がちぎれてしまいました。


二人は体が分かれたことにも気づかずに、男の人の元へ向かいました。男の人は本当に、つつじの花のような香りのするドーナツや、シャボン玉のような色をしたチョコレートをくれたのです。でも、体がちぎれてしまったので、どれだけお菓子を食べようと、口に入れた途端に背中からこぼれてしまいます。


すると男の人が言いました。


「じゃあふたりとも、わたしのうちにきてごらん。よくなめしたこやぎのかわを、ふたりのせなかにはってあげよう」


二人はとっても喜んで、男の人についていきました。他の子どもたちもその様子を見物しに、一緒についていきました。


男の人は、遠くまで歩き続けました。村の外に来たことのない子どもたちは、歌をうたう花々や、なぞなぞを仕掛けてくる大きな木たちに出会いました。村の中では、花は静かに咲くものでしたし、木はだんまりと根を張るものだったので、とってもびっくりしたのです。


やがて、男の人はまたげそうなほど小さな川を指さして、こう言いました。


「ふたりのせなかにかわをはるまえに、このみずのさかなたちにからだをあらってもらいなさい」


子どもたちがが川を覗き込むと、魚たちがひれを使って拭き掃除をしていました。そのこっけいな動きに誰もが微笑みました。


二人が川の中に足を踏み入れた途端、川は大人でも沈んでしまうほど深くなり、小さな魚はくじらを飲み込めるほど大きくなって、二人の足を水底へと引っ張りはじめました。


「そうだわたしはまほうつかい。せっかくねずみをおいはらったのに、きみたちのくにのおうさまにだまされて、たからをなんにももらえなかった」


二人は顔を青くして、叫びだそうとしました。だけど、二人には背中がなかったので、うまく声をだすことが出来なかったのです。


「はやく、みんなにげてちょうだい」


二人は溺れながら、必死で友だちに伝えようとしました。しかし、魔法使いにだまされている子どもたちには、二人が楽しそうに遊んでいるようにしか見えませんでした。ああ、声が出せればよかったのに。


そうして子どもたちは、次々と魚に飲み込まれていきました。魔法使いが笛を一吹きした後には、水一滴すら残らず、ただ花がしんと黙っておりました。


お題:口が裂けても・背中合わせ

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