第3話

 そっと、ため息をつく。あれからどれくらい経つだろうか。きみを見捨て、救えなかった己を嘲るようになってから。

 間違いではなかったと思う。世界を救うならばああするしかなかった。あれはきっと正しい行いで、けれど、僕にとっては過ちだったのだろう。

「──燈火イェロ

 囁きに応じて、指先に火が灯る。

 魔術。世の理をいっときだけ惑わせ、狂わせるすべ。ちっぽけな僕がただ一つ、誇れる力だ。だけどそれを、あの場では振るわなかった。世界ときみを天秤にかけ、世界を選んだ──その後悔が、いつまで経っても消えない。


「ああ、くそっ」

 心の裡で叫ぶ。愛する人も救えなくて、何が勇者だ、と。

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短編未満 プロローグ書き。 @yuny

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