第88話 シンメトリー作戦最終フェイズ-02:00:00

──2年目11月 シンメトリー作戦最終フェイズ開始まで -02:00:00──


「──よし。これから最終作戦会議を行う。」


金曜日、高専祭準備日の夕方。土日にかけて開かれる畿内高専文化祭、通称高専祭に向けて、学内のあちこちから喧騒が聞こえてくる。


そんな喧騒とは無縁の裏門では、5人の男女が悪巧みをしていた。


「じゃあまず、明日以降のシフトから。次は解説マニュアルとコクピット体験の説明マニュアル、展示アンケートの説明な。沙羅頼んだ。」


「…とてもじゃないけど悪巧みの会議ではないね。気にしたら負けか。」


「?なんの話だ?」


風花の疑問を無視し、沙羅はノートパソコンをプロジェクターに繋いで、話し始めた。


「──というわけで、以上が当日の仕事。各位覚え…てなさそうだね。」


ニコニコしている綾は恐らく大丈夫だろう。弘もマニュアルをめくったり戻したりして読み込んでいるので、なんとかなりそうだ。問題は風花と拓斗で、両者とも面倒になったのか、途中から投げ出していた。


沙羅はしばらく考えたが、この2人のために追加の対策をするなんて面倒を考えたとたんに面倒になり、「──まぁ、なんとかやって」とだけ言って、次の議題に移る。


「じゃあ次は、”レストア派”のみんなの当日の動きについて。連中にはグループチャット経由で三宅が指示を──」


「展示の設置はもう終わって──」「高専祭実行委員会の当日の確認は──」「OB会とアンフライとのすり合わせは──」「学校の動向は──」


詰めることは全部詰めた。1年間ずっと、この日のために走り抜けた。なにか足りてないんじゃないか、まだやり残したことがあるのではないか、そんな不安をかき消すために、頭を絞りつくした。


やがて日が落ちたところで、遠くからかすかな歓声が聞こえてきた。そこに混じるマイクの音と音楽。


「前夜祭か。」


「あ~あ、どうしても前夜祭に参加させたい実行委員会が待ち構えてるから、もう正門からは帰れないね~。」


「別に、私たちはいつも裏門からでしょ。」


「…キリがいいから、今日はここで終わるか。お前ら、やりたいことはないよな?」


風花は全員の顔を見る。それぞれ、各々の反応を返す。その視線は、風花へ問い返す視線でもあった。


「ま、全員OKみたいだし帰るべ。」


風花はそれを軽くあしらい、鞄を取って立ち上がった。


いつものように、片付けを済ませ、連れ立って部室を出る。最後に出た弘が電気を消して、建付けの悪い扉を無理やり閉めて、鍵をかけた。


 11月初旬の風は、もう冬の風だった。壁の薄いプレハブでも、まだ暖かかったことを実感する。つい先日に、今年初めて箪笥から出したマフラーを羽織りながら、全員で裏門へ向かう。


 ふと右手の実験自然林のほうへと目を向ける。裏門から帰るときの、無意識な動作だ。


 わずかながらも、月光を反射するシルバーのボディ。それよりも強く光を反射する、透き通ったキャノピー。その本来の部品を取り戻したプロペラは、以前よりもより回りがよくなった。何年もの思いが蘇らせた銀翼。


 「また明日、テキサン。」


我らレストア部の宝にして、誇るべきアピールポイント。国立畿内工業高専レストア部“T-6Gテキサン”を背に、畿内高専の裏門をくぐり、5人は帰路についた。

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