第87話 シンメトリー作戦最終フェイズ-05:12:00
──シンメトリー作戦最終フェイズ開始まで -05:12:00──
「ようこそ、おいでくださいました。」
正門の前には、既に図師が待ち構えていた。タクシーを降りた綾と荒島、柚木は、軽く会釈する。
荒島が社交辞令を返そうとしたその時、空気の割けるような音とともに、黒い影が空を横切った。
荒島と柚木は、そのもの珍しさゆえに、小さく感嘆の声を漏らす。この音が日常である図師は、その反応を見て喜んでいるようだった。
「すぐ隣は航空自衛隊の基地ですからね。もっとも、ウチも滑走路を使うので、門を挟んだらエプロンですが。」
図師を先頭に、アンフライ松島工場の敷地を進む。アンフライの本社兼工場、格納庫を兼ねているが、敷地や施設自体はそれほど大きくもない。一番大きい施設である格納庫内では、アンフライ初のレストア機である紫電改や、各地から集められた放置飛行機が集められていた。
格納庫に隣接する、少し背の低い建物の扉を図師が開ける。途端に、外からでもわずかに聞こえていた、様々な機械の動作音が大きくなった。
「強羅さんは機械科だったかな。ここにある工作機械がなんだか分かるかい?」
荒島が綾に問う。同じ機械科の風花は言わずもがなだが、荒島は技術者の卵としての綾のポテンシャルは知らなかった。
「こっちはNC旋盤、CNC旋盤、これはマシニングセンタですかね~。あ、レーザー加工機は分かります。実習で似たようなものは触りました~。」
「うん、流石というか、やはり高専生はそういうところに強いね。」
綾は基本的には優等生だった。
「当社の工場では、回収した航空機のパーツの修復だけでなく、可能な限り実際の性能に近づけた再現部品も製造しています。中には、3Dプリンターで代用している部品もあるんですよ。」
「ほぉ」
同じ経営者である荒島が反応する。2人が経営者談義で盛り上がっている中で、柚木は微妙な表情をしていた。
「柚木さん、どうしたんですか?」
その表情の機敏を見逃す綾ではない。
「いやぁ…僕の仕事は、自衛隊や大手重工と取引のある仕事だからね。なんというか、すっごく親近感のある職場で…」
「あぁ~なるほど!」
「強羅さん、心なしか嬉しそうじゃない?」
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「あ~やっぱし私が行きたかった!なんで綾なんだよぅ~。」
同じ時刻、レストア部部室で、ちょうど昼の弁当を食べきった風花が、机に突っ伏しながらバンバンと叩き、ごねていた。
「そりゃあ、平日に学校サボって影響ないのがあの人だけだからですよ。俺も行きたかった。」
「弘も私らと同じ、立派な不良だもんな!」
そう言って、風花は弘の背中をバンバンと叩く。振り下ろされる腕に、弘は自分の箸の後端を待ち構えさせると、見事に刺さった。
「痛ってぇ!」
「行儀悪いよ、そこの2人。」
手早くゼリー飲料で食事を済ませた沙羅は、2人の方を見ることもなくパソコンに向き直った。
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