第69話 綾の夏休み④

「ちょっと勿体つけすぎましたか。紹介します。これがアンフライ初の再生飛行機──日本海軍局地戦闘機”紫電改”です。そしてアンフライは──レストアした飛行機を、松島で再飛行させます。」


 と、同時に、格納庫から紫電改が登場。図師は、我ながらキマった演出ができたと思った。


 実際この演出は、その手の類が好きな人には刺さるだろう。水瀬風花なら飛び上がるし、松ヶ崎弘なら感極まってその場で立ち尽くす。


 だが、今回の対象者は”強羅綾”だった。


 「お~」


 彼女は眉一つ動かさず、格納庫の中に入っていく。とにかく日陰に入りたかったようだ。


図師が(え、それだけ?)と思うのも、無理はなかった。


国内どころか、世界で唯一の飛行可能な紫電改。もっと平たく言えば、「70年以上前に作られた、まだ飛べる飛行機」だ。例えこういったものに造詣が深くない者でも、その凄さは分かるはずだ。というか、この紫電改は国と自衛隊から援助を受けたアンフライが修理し、宮城県との提携のもと観光資源として活用する予定なので、オタク以外にもその凄さが伝わらないと意味がないのだ。


ようするに、反応が薄くてショックだった。


「…強羅さん、どう思いますか?…こう、同じくレストアに関わっておられる人の感想を教えてもらえますか?」


そして情けなくも、思っていることをそのまま聞くしかなかった。


「う~んそうですね…まるで新品みたい?と思いました…・完全に当時の部品を使ってるわけじゃないんでしょうけど、ぜんぜん違和感がないですね。あと…ウチのテキサンよりは、ちょっと大きい?気がします。」


煮え切らない返事が返ってきた。図師の中で、強羅綾という人間への違和感が生まれる。


「それと質問なんですけど、どうして御社は自衛隊から援助していただいているんですか?私の印象だと、旧日本軍と自衛隊の関係について、タブーと捉えている方々は年齢層問わず多いように感じます。日本に放置飛行機はいくらでもあるのに、そして民間の飛行場はたくさんあるのに、どうして御社はわざわざ紫電改を選ばれ、自衛隊に援助していただくとことを決定されたのでしょうか。」


煮え切らないと思ったら、途端に饒舌になった。


図師は、ひょっとするとこの子は、工業の分野にたまにいる”話の通じない子”ではないだろうか、と一瞬疑った。往々にして、自分の話だけしていたいような人間は少なからずいる分野だ。


だが、彼女は今の会話も、これまでの会話でも、図師の投げたボールを無視するようなことはしていない。まともに会話は成立する相手だ。なのに、この違和感はなんなのだろう。


…いや、今思えば彼女との会話は若干不自然に”自然に成立”していた。図師は自分が最初に抱いた印象を思い出す。そう、彼女はまるで就活生のようだった。


「…図師さん?すいません、私ったら興奮しちゃって~」


しばらく回答に詰まっていた図師の様子に気づき、強羅綾は苦笑し、わずかに頭を下げる。


「ああ、いや、ごめんね。少しぼーっとしてしまってました。熱中症にはお互い気を付けないとね…。

質問の回答になってなくて申し訳ないですが、逆に私から強羅さんに質問させていただいてよろしいでしょうか。」


図師は、確かめることにした。


「強羅さん、あなたは本当は、飛行機に興味がない、ですよね?」

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