第67話 綾の夏休み②
太平洋の刺激的な太陽光から、紙と肌を守るものが何もない、ただただだだっ広い一面のコンクリート。
駐機場ですらこれほど広いのに、この基地には2700mと1500mの二本の滑走路を持つ。ただただ広い、コンクリートと平原の363万平方メートル。
これだけ広いのに、航空祭で一般来場客の入れるスペースはごくわずかなせいで、人でごった返していた。
強羅綾は、汗で湿ったパンフレットと、自分の場所を頼りに目的の展示を探す。だが、あまりにも人が多すぎて、今自分がどこにいるか分からない。
ふぅー、と長めの息をつく。流石に炎天下とこの混雑の中、2時間近く座っていないとなると疲れもたまって来ていた。
しかし、綾にとっては久しぶりの一人旅。そして想定外の混雑具合は、本人の思っている以上に疲れを貯めていた。
一瞬、ほんのゼロコンマ秒、綾の頭上が影になる。まるで切れかけの蛍光灯が点滅したように。
綾だけでなく、その場にいた全員が空を見上げる。だが何もいない。
代わりに、その場にいた全員が耳をふさぐほどの轟音が襲った。
その衝撃に思わず目もつぶる。それがトリガーだった。
平衡感覚を失い、身体が浮いたように感じる。次の瞬間、下半身に衝撃が奔る。
(あ、立ち眩み…これたぶんこけた?)
朦朧とする意識の中でやけに冷静だったが、それからの記憶はあいまいだった。
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強羅綾は好奇心の塊だった。
理解できないものを知りたいと強く願っていた。それが人間であっても関係なかった。
煙たがられるのは言うまでもない。
だがあるとき、彼女は気づいた。
他人が何を考えているのか知りたい。あのときどんな気持ちでいたのか知りたい。
でも、あまり近づきたくない。
知りたい。でも、知る以外はいらない。
「そうか、私、人が苦手なんだ。」
やがて綾は、畿内高専に入学した。
「俺は卒業までに企業作って儲ける!」「私はさっさといい会社に入って結婚する…」「この学校のシステムを解析して成績改ざんして卒業しようかな…」「テキサンといっしょに、腐った学校をぶっ飛ばす!」
みんながみんな、やりたいことを持っていた。なにかしら目標があった。目標がなくとも、やりたいことをやっていた。面白い興味対象ばかりだった。綾は質問攻めを抑えられなかった。
だが、みんなが揃いも揃って口にする質問にだけは答えられなかった。
「「「「「「それで、あなたは何がしたいの?」」」」」」
だって、綾自身、よくわかっていなかったから。
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「株式会社──アンフライ。」
綾は貰った名刺を眺める。ポップな飛行機の絵と流線形のフォントで構成されている凝ったデザインの名刺で、目の前の中年サラリーマンといった風貌の男性の物とは思えない。
「ウチはベンチャー企業でね、面白い名刺でしょう。ウチの若いのがデザインしたんですよ。」
「ベンチャー…何をされている会社なんですか?飛行機の絵という事は自衛隊関係かな…?」
後ろ半分は、抑えられぬ好奇心が無断で綾の口を使っていた。
「その通り、わが社は、古い航空機の修復だけでなく、再飛行も手掛ける会社です。」
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