第46話 2年目8月②

 お盆明けの日曜日、レストア部は休みだった。


 夏休みに入ってからは、やれ熱中症対策だのガイドラインだので、強制的に週に一日休まされるようになった。「お盆でだらけたんだから今更休暇など必要ねぇよ」と風花は愚痴っていたが、これに関してはレストア部に関係なく、全部活動共通なので仕方がない。


 ここのところ弘は、行きの電車で爆睡し、炎天下のもと朝から夕方まで作業しては、帰りの電車で爆睡する毎日を送っていたので、できれば日曜日ぐらい家でくたばっていたいというのが正直なところだった。


 しかし、今日もいつもの時間、いつもの電車に乗って、いつもの駅へ向かっている。これで13連勤が確定した。


電車の扉が開いて、熱風が流れ込んでくる。もう既に帰りたいが、観念して灼熱の世界に足を踏み出す。心が負けないよう、お茶を身体に流し込む。


駅から高専まで、自転車で15分。田舎は辛い。だが今日の目的地は、高専からさらに自転車で10分ほどかかる飛行神社だった。


田んぼばかりで日影の無い、そのうえアスファルトは強烈な熱気を照り付けてくる道を、自転車で25分。


「死ぬなよ、俺…。」


意識を保つために頭を巡らせる弘だった。



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 あの日の翌日、風花は何事もなかったかのように登校しては、いつものようにハードワークをこなし、いつものように女子組で帰宅していった。


 夏休みになっても、春休みと特に変わらない日々。変わったことと言えば、風花の過去を知ったことと、レストアが確実に進んでいることぐらいだった。


 一つだけ意外だったのは、影の薄い顧問が資材管理部から巨大扇風機を借りてきたことだった。


 部活動用に割り当ててあったものが余ったらしく、声をかけてもらったと言っていたが、おそらく顧問は顧問なりに手を回してくれたのだろう。どちらにせよ、レストア部がこういった好意を学校側から受けるのは初めてであったので、漏れなく全員に衝撃が走った。


 少しずつ、みんなから理解されてきた証拠だと荒島会長は言っていた。が、弘には未だ実感が湧かなかった。


 理解されることで、風花が救われるのか。救われるのだとしたら、それでいいのだろう。だがそうなると、テキサンが完全に修理されて、再び飛んだとしても、理解されていなかったら風花は救われないのだろうか。


 答えは出なかった。というよりも出さなかった。


 沙羅の時の間違いは、もう踏まない。自分の中で通る正しさばかり思い詰めて、誰かとすれ違うのはしんどい。かといって、なにもやらないのは間違っている。


 他人を理解するために、行動を起こすべきだ。だからこそ、今できることはただ一つ。


 あの少女の言っていたこと──飛行神社神主、矢田さんに、オサムなる人物の話を聞くことが、今の弘にできることだった。


 「というか、そもそも君は誰なんだよ…。次あったら絶対聞き出す…。というか今すぐ出てこーい…。」


 そんな独り言も、セミの騒音にかき消されていった。

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