第24話 1年目12月⑮
その晩、レストア部第2回会議が緊急的にボイスチャットで行われた。バイトのある綾と拓斗以外が出席し、弘の報告と、昼間総務課にて発生した水瀬風花襲撃事件の詳細が犯人の口から語られた。
「『レストア部のことは学生課や学生会からも聞いてなかったし、新校舎計画は共有されてると思ってた。OB会窓口担当は風邪ひいて今はいない』──って仕事やる気あんのかあいつらマジで!学生だからって舐めやがってあ~ほんとマジで腹立つまだ頭痛いわクソ」
風花はというと、会議開始時からずっとこの調子である。
「事前に弘が送ってくれた警告紙と、怒りのあまり書きなぐられた風花の怪文書を読んだうえで欠席の2人からも反応があったけど、綾曰く『このやり方は流石に正気とは思えないね~。意図的にここまで露骨な手段をとることは考えづらいし、確実に学校上層部内で情報の共有が図られていないとしか思えないねぇ。』だって。まあこれは風花の話からもほぼ正解っぽいね。三宅君だけど、『炎上させたいならいつでも』だそうだよ。」
マネージャーのはずが、書記業が板についてきた沙羅が簡潔にまとめてくれた。
「それとOB会にも昼間のうちにメール送ったんだけど、文面からもわかるレベルで怒ってたよ、柚木さん。話聞く限り、わりとアンチ高専!な人っぽいね。」
なるほど確かに、これは結構キレている。というか「学校のずさんな管理体制には怒りを覚えます」って言ってしまっている。
「まあそれはいいとして、弘!なんでお前も総務課襲撃に参加しなかった!」
「『部長一人で十分じゃないですか!僕まだ学校に不審人物としてマークされたくないです!』」
「僕の真似のつもりですかそれ?イマジナリー松ヶ崎で自分に返答しないでください…。」
実際のところ、その一面は確かにある。電話の調子だと、完全に風花ひとりの力で何とかなるだろうと思ったのは事実だ。だがそれ以上に
「なんか今日のお前変だ!アホみたい」
「それはシンプルに暴言では?」
完全に昼間の少女のショックが大きい。素直に話してもいいが、今考えるとあまりにもスピリチュアルな体験だったので、話しにくいことこの上ない。だって金髪碧眼少女が突然現れて弘の魂を抜いて突然消えたなんて、言ったら「頭おかしくなったか?」と言われておしまいだ。
「頭おかしくなったか?」
話さなくても言われた。もう終わりだこの部長。
「まあ…ちょっと色々あって、ナイーブになっているといいますか。ほっといたら治りますよ、たぶん」
「…。なんかあったらいいなよ?」
沙羅の気遣いが沁みる。本当に半分不登校のハッキング趣味成績改ざんサバゲー女子とは思えなかった。
しかし、ずっと怒りをまき散らす風花とナイーブな弘、唯一まともに機能する人間が沙羅だけの状態で話を進めるわけにもいかず、OB会側も学校とバトルする気でいるようなメールも返ってきていたので、ここではとりあえず「学校に正式な抗議と説明をOB会と連名で送りつける」ことで決定となり、解散となった。
ボイスチャットから退出し、PCをシャットダウン。そのまま布団にダイブする。正直、今日はメンタル的にだいぶ堪えた。
ちょうど翌日から冬休みに入り、学校は全面的に休業となる。抗議文は最速でも冬休み明けに送り付けることとなるので、気持ちが逸っても何の得にもならない。
レストア部というか、テキサンの危機であることは間違いない。だが、レストア部の一員として、素直にこの事態に立ち向かえるほど、弘も強い人間ではなかった。
「なんで、部長みたいに、なれないんだろう。」
そのつぶやきは睡魔の中に溶けていき、弘は自分の言葉に気づくことは無かった。
───────────────
年が明けて、仕事始めとなるとすぐ抗議文が提出された。作成はレストア部が行ったが、提出自体はOB会側のレストアプロジェクト担当である柚木さんと、荒島会長が直接足を運んで提出された。この件にはOB会も絡んでいるんだぞ、という、文字通り脅迫そのものだった。さすがの学校側も事態は重く見たのか、その場で「後日正式に、学生も交えてお話合いさせていただきたい」との申し出があった。しかしそこは荒島会長、「主役は彼らです。彼らに断りなさい」と一蹴し、今の今まで存在が空気だったレストア部顧問経由で日程のお伺いがたてられた。
「…という事でお前ら、まあ確かに災難ではあるし同情するし、立場上協力するっちゃするが、へんなことはするなよ…。とくに水瀬。次暴れたらたぶんヤバい。」
新年明け最初の授業日、今の今まで存在が空気だった顧問が上記の経緯が説明しに来た。説明とはいえ、風花への釘差しのほうが明らかに比重が大きかったのはこの際言うまでもない。
というか、顧問がレストア部発足後顔を出したのは、今回が初めてな気がする。
「──はいはい、じゃあ2週間後って言っといて。」
風花がぶっきらぼうに返答する。相手は一応教員なのだが、この傍若無人独裁者部長は、相手が老若男女誰であろうと、態度を大きく変えることは無い。今更、先生側も「失礼だろ!」なんて反応するわけでもなく、ただ「はいはい」と言って足早に去っていった。
「で、二週間で何とかなるの?」
沙羅が、部室の隅に作られた彼女専用のPCスペースから、顔も出さずに聞いてくる。パーテーションの奥からは、絶えずキーボードのタイプ音が響いている。そのまま彼女は続ける。
「本来の所有者、管理責任の所在、学校の理念などあらゆる資料と完成させた修理計画書──。ざっと用意するべきものはこんなところだとは思うけど。」
「まあ、権利だとかなんだとかのクソめんどくせえしがらみの象徴は、私は触るだけでアレルギー性鼻炎を発症しちゃうからな。うちの部にはそういうのが好きなもの好きの変態がいるし、プロに任せるわ。なあプロ!」
「機械性癖に変態なんて言われたくないよねぇ~。まあやるけど?」
部室の長机に肘をついて、校則を読み漁っていた綾が答える。結構センシティブな会話であることはこの際無視する。
「沙羅は三宅と一緒にネットを漁れ。レストアなんて基本的に利権との戦いなんだ。理不尽な権力と戦ってる尊敬すべき先人たちの知恵を集めてこいや」
「それはそれとして、好きにやらさせてもらうよ」
相変わらず沙羅は、奥から顔も出さずに返事をする。だが、弘にとってはやたらと頼もしい。
「そして弘!お前は私と修理計画書を作る!」
「え?」
「一年以内で、テキサンを完全に修復するスケジュールを立てる!それが私とお前の仕事だ!気張るぞ二週間!」
「…はああ!?」
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