第12話 1年目12月③

 自分は今、何をやっているのだろう。


 12月の初週。昼の4時を過ぎた程度なのに、既に西日が図書館に差し込んでいた。


 かれこれ一時間は図書館に居座っている弘は、自分の手元にある古い校内誌の、日焼けした古い紙の色と西日の色っておんなじなんだな、のような、意味のない感慨にふけっては、意味のない時間を過ごしている自分が嫌になり、手元の何のために引っ張ってきたのかすらよく覚えていない資料を読む、を数回繰り返していた。


 一時間前、沙羅に言われたことが思ったより響いている。


 正直、反論のしようが無かった。あのよくわからない先輩達に、発破をかけるとは言わないまでも、一言いいに来たつもりが、一対一で口喧嘩となり──いや、一方的に正論で言い負かされるとは思っておらず、無様に逃げ出してしまった。


 自分の言いたいことが、全て間違っているとは思えない。だが、それ以上に沙羅の言の方が、はるかに正しいと思えた。


 その上、


 「だいいち、なんで飛行機テキサン直したいのか知らないのかよ...」


 一言言っておきたい相手のうち、本当の答えを知っている人間がただ一人しかいないことも、大きく響いていた。


 つまるところ、あそこで沙羅を問い詰めること自体が、完全に無意味だったのだ。むしろ、沙羅こそが風花の真意を最も知りたい人物であると言える。


 そうやって、思考の対象がまた風花から沙羅に変わり、そのうち風花に変わり──をずっと繰り返している。


 そしてたまに、図書館で目的無く腐っている時間の意味を考え、沙羅の「だったら、この時間に弓道部に行けばいいじゃん。こんなところで油売ってる間に、できることはあるでしょ。」の言葉がフラッシュバックする。沙羅の言葉に素直に従うのがなんとなく嫌で、この腐った時間を繰り返してしまっていた。


 そうこうしているうちに、弓道部の本錬が始まる時間となっていた。風花に連行されるならまだしも、本錬を意味もなく休む理由はない。それに、強制的に他のことをさせられた方が、今は気が楽と思ったので、弘は読んでいたような読んでいなかったような、昨日発刊されたばかりの、今月号の学校広報誌を棚に収めるために立ち上がろうとして──


 「...畿内高専OB会50周年プロジェクト?」


 その文言と共に、テキサンと数人の老人─おそらくOBの記念写真が、一か月前の日付で掲載されているのを見つけた。

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